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【17】SIDE蓮見(11)-5

「だから……」  一度無残に引き抜かれ、やっと再び根を張り始めた薔薇を神様は枯らしたくないのだと、西園寺は言った。  そんなことは蓮見だって望まない。  自分に何ができるだろうかと考えた。三井に必要なものは何か、必死に考えた。  中庭の土に雨が落ちる。 「ここは、『家』なんだな」 「ん?」 「閉じてるだろ……。木があって、火があって、土があって、金属のパイプと階段があって、水が流れてる。入り口は見つけにくいし、ドアには把手もない」  ――木火土金水(もっかどこんすい)。  蓮見が呟くと、西園寺が「おや?」という顔をする。この男は一般人を舐めている。 「そのくらい、俺だって知ってるよ。この空間は『世界』なんだろ。木火土金水っていう五つの要素が世界を構成するとかって、何かで聞いたぞ」 「ああ。それは意図しただろうな」 「内側からしか開かないドアは、自分が選んだ人間にだけ中に入ることを許す、閉じた世界を表してる。で、ここでは全部許される」  西園寺と美作神様が感心したように頷く。 「つまり『家』だ。家では何したって許される。ハナクソもほじくり放題だ。自分ちなんだから、気に入ったやつしか入れたくない」 「ああ」 「めちゃくちゃ綺麗な家だけど」  蓮見が言うと、西園寺が口の端を上げた。 「おまえ、時々やけにスルドイな」 「あんたが一般人を舐めすぎなんだよ。それに……」 (ここじゃダメだ……)  こんなふうに、隠れなくていい。  もっと、普通でいいのだと蓮見は思う。  異性を愛せないことは特別なことではなく、誰が誰を好きになったとしても、それを誰かに許される必要はない。  祈ることさえ必要ない。  ただ、好きだと思う相手を愛する。普通のことだ。 「ここじゃ、あんまり気持ちよくハナクソが飛ばせないな……」  蓮見の言葉に二人が怪訝な顔をする。

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