152 / 207

【17】SIDE蓮見(11)-6

 頭がいいくせに、何もわかっていないのだなと思う。 「三井さんを、迎えに行きたい」 「どこに?」  神様と西園寺が同時に問う。  二人の話を聞いて、三井にはどこにも行くところなどないのだとわかった。  今いる場所に、やっと立っていたのだと……。  だったら。 「あの人の故郷がどこか、教えてくれ」 「そこにいると思うのか」  帰れる家はないだろう。けれど、ほかに行くところもないはずだ。 「故郷って言っても、広いぞ」 「墓だよ。三井家の墓の場所を教えてほしい」  神様が心配そうに蓮見を見る。 「遥は大丈夫かな」 「土曜日には帰るって坂本に言ってる。だから大丈夫だよ。三井さんが仕事を投げるわけがない。でも、たぶん、ちょっと傷ついてる。それか、迷ってるんだ。俺が、言ってあげなきゃいけないことを言いそびれてたから。だから、気持ちが迷子になって……」  もっと早く、きちんと伝えなければいけないことがあった。 『暇さえあれば、でかいの突っ込んでアンアン言わせてんだろ』  西園寺の言う通りだ。  身体をつないで声を上げさせるばかりで、一番大事なことが伝わっていない。だから、三井は今ここにいないのだ。 「明日の現場、職人さんには電話入れてなんとかする。午後、ひとつ検査があるから西園寺が行ってくれ。あと、神様は三井さんを名前で呼び捨てにするのやめろ。むかつくから」  それから、と言いかけて、まだどこか心配そうな顔をしている中年男二人にため息を吐いた。 「三井さんはそんなに弱くない。神様に生かされたことも、あんたたちが生きてほしいと思ってることもわかっているはずだ。そういう気持ちを酌めない人じゃないから、心配するな」  神様がゆっくりと頷く。 「わかった。きみを信じる」 「少し迷子になってるだけだ。真面目だから、考え過ぎてどこに行けばいいのかわからなくなって、きっと心細い思いをしてる」  だから、自分が迎えに行って「こっちに来い」と言ってやるのだ。

ともだちにシェアしよう!