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【17】SIDE蓮見(11)-6
頭がいいくせに、何もわかっていないのだなと思う。
「三井さんを、迎えに行きたい」
「どこに?」
神様と西園寺が同時に問う。
二人の話を聞いて、三井にはどこにも行くところなどないのだとわかった。
今いる場所に、やっと立っていたのだと……。
だったら。
「あの人の故郷がどこか、教えてくれ」
「そこにいると思うのか」
帰れる家はないだろう。けれど、ほかに行くところもないはずだ。
「故郷って言っても、広いぞ」
「墓だよ。三井家の墓の場所を教えてほしい」
神様が心配そうに蓮見を見る。
「遥は大丈夫かな」
「土曜日には帰るって坂本に言ってる。だから大丈夫だよ。三井さんが仕事を投げるわけがない。でも、たぶん、ちょっと傷ついてる。それか、迷ってるんだ。俺が、言ってあげなきゃいけないことを言いそびれてたから。だから、気持ちが迷子になって……」
もっと早く、きちんと伝えなければいけないことがあった。
『暇さえあれば、でかいの突っ込んでアンアン言わせてんだろ』
西園寺の言う通りだ。
身体をつないで声を上げさせるばかりで、一番大事なことが伝わっていない。だから、三井は今ここにいないのだ。
「明日の現場、職人さんには電話入れてなんとかする。午後、ひとつ検査があるから西園寺が行ってくれ。あと、神様は三井さんを名前で呼び捨てにするのやめろ。むかつくから」
それから、と言いかけて、まだどこか心配そうな顔をしている中年男二人にため息を吐いた。
「三井さんはそんなに弱くない。神様に生かされたことも、あんたたちが生きてほしいと思ってることもわかっているはずだ。そういう気持ちを酌めない人じゃないから、心配するな」
神様がゆっくりと頷く。
「わかった。きみを信じる」
「少し迷子になってるだけだ。真面目だから、考え過ぎてどこに行けばいいのかわからなくなって、きっと心細い思いをしてる」
だから、自分が迎えに行って「こっちに来い」と言ってやるのだ。
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