153 / 207

【18】SIDE三井遥(7)-1

【18】 SIDE三井(遥) 7  何かを決めて出てきたわけではなかった。  インフィニティにいたと新井に言われ、男娼あがりの淫売と罵られた。その新井を蓮見が殴った。  それだけで、遥の中で何かが壊れた。  宗森家で育ったこと、三井家ですごした一年弱の日々、逃げていた数日間のこと、インフィニティで守られるように隠れていた日々、それらをどこか深い場所に封じて、新しい場所を見つけてきたつもりだった。  幸福の箱を売る。  いつか蓮見が口にした言葉を支えに、仕事を通して自分の居場所を見つけられたと信じていた。  生きていていいのだと、生きることが嬉しいと、ようやく思えるようになった。  けれど、その気持ちは遥が思うよりずっと不安定なものだった。一番根っこの部分で遥はまだ呪われたままだ。  その呪いを遥は見落としていた。  遥から全てを奪い、梓を死に追いやった呪い。  異性を愛せない。  何もこの世に残せない。壮介が言ったように遥の存在には意味がないのだ。  蓮見は違う。  ――三井の今の男か。  新井の言葉を耳にした時、遥の呪いを蓮見にまで背負わせてはいけないのだと気付いた。  積み上げたものが、また足元から崩れた。  コンビニの先の駐車場にクルマを停め、いつものようにアパートに足を向けた。  男娼上がりという新井の言葉を、蓮見がどう受け取ったのかはわからない。遥は自分のことを話せなかった。形を持たない遥の過去に、蓮見がそんな人生を当てはめてもおかしくないのだ。  それで遥を嫌いになったとしても、おかしくない。  このまま会えなくなっても仕方がないのだと、自分を諦めさせた。

ともだちにシェアしよう!