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【18】SIDE三井遥(7)-2
けれど、雨の中でアパートの窓を見上げ、居間の明かりが点いているのを見たら泣きたくなった。
そこに蓮見がいる。
そう思うだけで、こんな日でも遥は嬉しいのだ。そして、この嬉しさをこれから失うのだ。
そう思うと、急に怖くなった。
いつかは終わる。
永遠は望まない。ずっと自分の心に、そう言い聞かせてきたのに。
蓮見の手を離すことと、ずっとそばにいたいと思うこと。蓮見の幸せと自分の幸せを秤にかければ、蓮見の幸せがずっと重い。
なのに、欲深い遥は何も選ぶことができない。
そばにいたい。それだけの願いが手放せない。
考えても答えの出ないことが、ずっと頭の中をぐるぐる回り続けている。
一日でも二日でもいい。自分の中に澱 になって重なるものと、一度きちんと向き合う時間が欲しかった。
いつか終わるとわかっていたのに戻ることができなくなった自分に、もう一度諦念を思い出させるための時間。三ヶ月前には知らなかったことだと、忘れてしまえばいいと、自分に言い聞かせる時間が欲しかった。
七年前、遥は逃げるように三井家を出てきた。それ以来一度も故郷の土を踏んでいない。
二度と戻らないと心に決めて出てきたけれど、一度も梓の墓に参らないまま七年以上の月日が過ぎていたのだと思うと、ふいに申し訳ない気持ちになった。
どこに行くともなしに、ふらふらとアパートを離れた遥に、向かう先はそんなに多くなかった。梓の墓に花を手向け、謝りたいと思った。
本当は、三井家にもきちんと謝り、礼を言わなければいけないのだ。
そう思うと足が竦んだが、やはりほかに行くべき場所は思いつかなかった。
かつて、何も持たずに逃げるように降り立った高速バスのターミナルに向かう。七年前の道を戻るチケットを買い、バスに乗り込んだ。
窓を流れる雨の雫に、冷たい雪の夜が重なる。
自分はまた逃げているのだろうかと不安になった。
夜の中を走る。
明け方近くに大きな駅に着き、三井家のある街までの乗車券を買った。大学に通っていた頃は毎日のように歩いた街をホームから眺める。
そこにに思い出を探す気にはなれなった。
二両編成のローカル線の、下り電車の乗客はまばらだった。大きくも小さくもない駅に着き、そこで降りる。
駅を出ると、まだ早い時刻の曇り空を見上げた。太陽はどこにもなかった。
ここから路線バスに乗って三井家の屋敷に行けば、墓地は近い。
けれど、遥にはそれができなかった。
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