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【19】SIDE蓮見(12)-2

 金曜の朝、始発の新幹線で三井の故郷がある北の街に向かった。  三井が姿を消したのは月曜の夜で、火曜から木曜まで、丸三日の時間があったことになる。仮に蓮見の考えが正しいとしても、すでに墓参りは済ませている可能性も高かった。  ただ、土曜日まで休むと三井は言っている。そこには簡単に動くことができない生真面目な三井の姿が透けて見える気がした。  気付かないふりでやり過ごせばいいことに、三井は立ち止まる。安田邸のキッチンだけでなく、仕事の上でも暮らしの中でもいい加減なことができないのだ。  持って生まれた賢さのせいなのか育ちのせいなのかはわからないが、妥協点が極端に高い。  このくらいでいいと思える基準が低いほうが、人生は生きやすいだろう。そう思うのだが、一方で、三井の妥協のなさが蓮見は好きだった。  なんでもできてしまうがゆえの不器用さを愛しく思う。  そんなに頑張らなくてもいいのにと思いながら応援したくなる。  今も、何かが腑に落ちるまで考え続けているような気がした。  蓮見に話したいと思いながら話せずにいた過去の日々や、そのせいで新井の言葉を蓮見が信じたかもしれないという不安や、そんないろいろなことと一度に向き合って途方に暮れている姿が目に浮かぶ。  そんなものは、全部まとめて自分に預けてしまえばいいのだ。  そのどれ一つも、蓮見が知っている三井を損なうものではないのだから。  辛かったことがあるなら、全部蓮見に渡してしまえばいい。それを小さくする力に、自分はなりたいのだと思った。  インフィニティを出た後、蓮見は思い立って短いメッセージを三井に送った。  ――鍋が食べたい。  直接声を聞くまで安易な言葉はかけたくなかったが、ふいに心に浮かんだ、なんでもないひと言を打ち込んでみたくなったのだ。  朝になって既読が付いていたことに勇気付けられる。  返信はなく、再び電源が落とされていたが、どのみちそこから先は蓮見の賭けなのだと思った。  何も言わずに姿を消し、連絡を入れたとはいえ仕事を休んでまで三井が出掛けてゆく先が、蓮見にはほかに思い付かない。西園寺たちの話を聞いても、ほかに行くところがあるとは思えなかった。  待っていれば帰ってくるのかもしれないが、それでは何かが足りない気がした。  三井が思うよりもずっと、蓮見にとって三井は大切な存在なのだと、伝えたい。  三井なしで生きられないくらい、どうしようもなく好きで必要な人なのだと、しっかりと心に刻んでほしかった。

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