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【19】SIDE蓮見(12)ー3

 ターミナル駅から電車を乗り継ぎ、ありふれた地方の駅に降り立つ。タクシーに乗ってたどり着いた三井家の屋敷は、想像以上に大きかった。  どこまでも続く築地塀の先に瓦を載せた立派な門があり、わずかな隙間から覗く庭は手入れが行き届いて美しかった。建物は外から見えない。  三井が生まれ育った宗森家はさらに広大な屋敷を持つという。改めて蓮見の知らない三井の顔を知る思いだった。  何か言いにくい過去があるのだろうとは思っていたが、こんな大きな家で暮らしていたことや、ここよりさらに大きな家で生まれ育ったことなど想像しようがなかった。その家を追われて彷徨い逃げるしかなかった人生など、なおさらだ。  初めてアパートを訪ねた日、三井は蓮見が長男だと聞くと、家を継がなければいけない立場だと言って寂しそうな顔をした。それを自分ができなかったことや、蓮見には将来それが可能なことなどを考えたのだろう。  そう思うと胸が痛かった。  あの日、何気なく言った言葉をもう一度きちんと伝えたい。蓮見には継がなければならないものは何もない。  恋人が同性でも何も問題はないのだ。  誰かを好きになる時に性別はなんの障害にもならない。世間がどう言おうとそれは当たり前のことだ。  それが当たり前であることをしっかり伝えたかった。  屋敷の周囲には大小さまざまな家と田畑が混在していた。  ようやく途切れた築地塀の角を曲がると、その先にも畑地があり、左手奥に寺とこぢんまりした霊園が見えてくる。  雨上がりの朝日の中、周囲は靄に沈んでいた。白く霞む霊園内の小道を進み、一つだけ極端に広い奥の一角を目指した。  そこに人影があるに気付いて慌てて近付く。だが、立っていたのは自分の母親と同じくらいの年代の女性だった。  質素な身なりと控えめな所作の様子から、三井家当家の人ではないような気がした。 「あの、こちらは、三井梓さんの墓で間違いありませんか」  思い切って尋ねると、女性は驚いたような顔で蓮見を見上げた。 「あなたは……」 「俺は、三井遥さんの……、友人です」  女性の顔が驚きから泣き笑いのような笑顔に変わってゆく。 「まあ……、まあ、遥さんの……」

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