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【19】SIDE蓮見(12)ー4
女性は何度も頷いた。
その様子を見ながら、この人はいったい誰だろうと考える。周囲の人のことまで詳しく聞いたわけではなく、見当がつかなかった。
蓮見が自分の名を名乗ると、女性も「佐藤梅子 です」と名乗った。
「宗森家で、奥様や遥さんのお世話をさせていただいていました」
「ああ……」
そんな人がいてもおかしくない家なのだ。わずかな驚きを隠して、蓮見は頷いた。
「今日は、梓様の月命日なんです」
見ると、墓前には新しい花が供えられている。
たまたま休みが取れたので訪れたのだと佐藤は続けた。宗森家の者としてではなく、佐藤個人の意思でここにいるのだと理解した。
何も持たずに墓に参ったことをひそかに恥じる。
ふいに一つの問いが頭に浮かんだ。
「佐藤さんの前に、誰か花を供えた人がいましたか」
佐藤は首を振った。
「ここ数日の間に供えられたお花はなかったように思います」
しおれた古い花を片付けたので、おそらく間違いないと言う。
ならば、三井はまだここに来ていないのだと思った。
だからと言って必ず来るとは限らないが、すでに来てしまった後だと知るよりいい。
「遥さんは、お元気にしてらっしゃいますか」
佐藤の問いに「ええ」と頷く。たぶん、大丈夫だと心の中で願う。
「今、何かお仕事をしてらっしゃるのでしょうか」
注文住宅の営業をしていると答えると、佐藤は不思議そうな顔をした。
意外だったのかもしれない。西園寺の話では、三井は相当な秀才だったらしいから。
中退した大学の名前は、大学受験を経験していない蓮見でもわかるくらいの超難関校だ。
蓮見は、三井はとても優秀な営業マンだと言い添えた。
満足そうに頷いた佐藤は、ほかにも用事があると言って一度立ち去りかけた。
墓地の出口に向かいかけ、何かを思いついたように戻ってくる。
「あの、お願いが……」
手帳から一枚の写真を取り出し、蓮見に手渡した。
「遥さんにお会いする機会があったら、これを差し上げてください。……一枚しかなくて申し訳ないのですけど」
古い写真だった。
三井によく似た美しい女性と、まだ若い佐藤に挟まれて、小さな男の子が嬉しそうに笑っている。
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