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【21】SIDE三井遥(8)-2
会合の終わりに、営業部長は遥に教育マニュアルの作成を命じた。
部長室を出た後は、そのまま展示場に戻りふだんの業務をこなした。
新井はすでに病院に搬送され、誰が掃除をしたのか床に付いた血の汚れも消えていた。
心の一部をどこかに置き忘れたまま、仕事のことだけ考えて一日を過ごした。
けれど、そうしていられたのも夕方までのことだった。自分の部屋に足を向け、窓に明かりがあるのを見た瞬間、心に降り積もっていた感情が、その重さに音を上げた。凍ったまま融けることのなかったその感情は、堰を切ったように大きな流れになって遥をのみ込んだ。
何も変わっていなかった。自分の中にあった呪いと向き合うために、一度、一人になって考えなければいけないと思った。
故郷の街へ向かった遥は、公休日の二日だけではうまく自分の心を整理できなかった。
木曜日の朝、ホテルの電話から国島展示場に連絡を入れると、坂本が通話口に出た。心配そうに声を落とし、けれど余計なことは何も聞かず、土曜日まで休むという遥の言葉を、そのまま別府に伝えると坂本は請け合った。
電話を取ったのが坂本でよかったと、後になって思う。新井が放った言葉は、波紋となって徐々に広がり始めていた。その時の遥は、その状況を知ることに耐えられなかっただろう。
土曜日に出勤すると、別府と坂本以外の三人が、どこかぎこちない態度を取った。
月曜の所長会議では、直接新井の言葉を聞いた所長たちが、別府に同行した遥に好奇の目を向けた。
その週のうちに、ネットの口コミ情報欄と会社のホームページに遥を想定した書き込みが見つかった。誹謗中傷に類するもので、その日のうちに削除されたが、誰の目にも触れないというわけにはいかなかった。翌週には、噂は尾ひれを付けて会社の内外に広がっていった。
直接何かを言われることはなくても、色を含んだ視線を向けられることが増えた。根も葉もない噂を信じ、ネットの掲示板やSNSを使って無責任な書き込みをし、それを覗くことを娯楽にする者たちが、遥の容姿を話題にしていると、聞きもしないのに、見知らぬ他社の事務員から教えられた。
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