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【21】SIDE三井遥(8)-4

 二人で横になるには少し狭い遥のゼミダブルで、服を着たまま遥をじっと抱きしめる。そのまま何もしないで朝まで眠る。  食事やふだんの会話はそれまで通りで、振り向くと目が合い、嬉しそうに笑うのも同じ。時おり遥の髪を撫で、頬や鼻の頭にキスをする。  けれど、セックスはしない。  梓の墓の前で蓮見に会った。  遥を迎えに来たと言って、しっかりと抱きしめてくれた。泣きたくなるほど幸せで、心の中で再び梓に感謝した。  急いたように最寄りのホテルに連れていかれ、身体を重ねた。その時が最後だ。  一緒に暮らすという蓮見の言葉に、ようやく決めた心が揺らぎそうになった遥は、いつか蓮見の手を離す日が来るとしても、その時までそばにいられればいいと、何度も自分に言い聞かせた言葉を蓮見に告げた。  そうすることで、遥自身も後に引けなくなると考えた。  しかし、蓮見はそれをひどく怒った。責めるように遥を抱き、なぜそんなことを言うのかと厳しく詰った。  なぜ、わからないのかと。  嵐のように激しく抱いた後で、突然、遥が欲しいと言うまで、自分から身体を求めるのはやめると言った。  遥は驚いたが、そうすることで蓮見が何かを伝えたいのだということはわかった。  一緒に暮せば、新井のような人間に心無い言葉をかけられるかもしれない。そう訴える遥に、蓮見はそんなことで自分は傷つかないと言った。  気にしているのは、遥が嫌な思いをするかどうかだけだと言った。  そして、人に何か言われたら、遥は傷つくかと聞いた。  遥は考えた。遥が苦しいと感じるのは、自分のせいで梓や蓮見を傷つけるかもしれないということだ。遥自身が何か言われても、構わないのだと思った。  傷つかない。  遥は答えた。自分は傷つかないのだと気が付いた。

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