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【21】SIDE三井遥(8)-6

 七月は第二四半期の初めの月だ。  その月の半ばに、遥は九月末で退職することを別府に伝えた。 「どうしてだ」  別府が驚くのも無理はなかった。不愉快な噂話はようやく影をひそめたところなのだ。  以前から考えていたことを、遥は伝えた。  その理由と遥の意思を知ると、別府はまた少し驚いて、それからすぐに「そうか」と頷いてくれた。 「そういうことなら、応援するしかないな。頑張れよ」 「はい。ありがとうございます」  引継ぎのための準備と研修マニュアルの作成とで、しばらく忙しくなるだろう。  それでも、遥の心は軽かった。  盆休み前の繁忙期が迫る七月末日、わずかな荷物を何度か往復して運んだだけで、蓮見は遥のアパートに生活の場を移した。  事情を知らない坂本が、蓮見の退寮を寂しいと嘆いた。

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