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【22】SIDE蓮見(14)-1
寮を出ようと思う。
そう言った蓮見に、坂本は「行かないでくれ」と言って泣いた。
「すぐそこに引っ越すだけだし、国島展示場は近いし、仕事帰りにいつでも会えるだろ」
「それでも、嫌だ。蓮見がいなくなったら、俺、どうすれば……」
涙目の坂本に「おまえは俺の彼女か」とツッコミを入れつつも、食堂の片隅でコンビニ弁当を抱える坂本が、新井の一件で三井に好奇の目が向く中、そのことにひと言も触れないことに改めて感謝する。
「どうすればって言われても、今までだって、別に俺が何かしてやってたわけじゃないしなぁ……」
「そんなことないよ。蓮見がここにいてくれるだけでいいんだよ。蓮見は俺の支えなんだから」
「支えねぇ……」
坂本には悪いが、蓮見が支えたい相手はほかにいるのだった。
「ま、たまにコンビニにでも呼び出せよ」
「ねえ、蓮見が引っ越すアパート、どこか教えてよ」
「それは、やだ」
探そうと思えばすぐに探せるだろうが、今のところは誰にも教えないつもりだった。
好きになった相手が同性だったからと言って、別に逃げたり隠れたりする必要はないと蓮見は思っている。しかし、一方で、ことさら周囲に触れ回る必要もないと考えていた。
三井と自分の関係やこれからの暮らしは、ごく自然なものだ。特別なことは何もない。当たり前の事実として扱う。それが蓮見のやり方だった。
三井と一緒に生きるために、自分だけはブレてはいけないのだ。嵐や風雨を遮る家になって、三井の笑顔を守り続けるためにも。
三井の幸福を守る。
その箱に、蓮見はなりたい。
どこに誰と住んでいて、その人とはどういう関係なのか。そんな話は、本人がしたくなければしなくていいものだ。それは誰にとっても当たり前の、普通の権利である。
異性愛者が自分の恋愛対象について何も言わないように、同性を恋人にしたからと言ってわざわざ言ってまわる必要はない。それだけのことだ。
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