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【22】SIDE蓮見(14)-6
それきり、谷と気まずい。
梅雨の鬱陶しさが、蓮見の苛立ちに拍車をかける。
好きな人を好きだと言うことの何が悪いのか。世界を敵に回しても、自分たちは正しいと叫びたくなる。
けれど、そう主張したところで、何かが変わるわけではないのも、わかっていた。
勝ち負けではないのだ。
先入観、常識だと信じているもの、塞がれた耳、何も見ようとしない目……。
それらは、全部、呪いだ。
そして、呪いを解くのは力や剣ではない。
それが呪いであることを見破り、当たり前のことを当たり前だと気付くことのできる平凡な魂だ。
特別な力はいらない。
落ち着けと、今は我慢だと、自分に言い聞かせて日々をやりすごした。
以前と変わらない様子で、三井は仕事を続けていた。書き込みを元に興味本位で近付いてくる者や、好奇の目を向ける者もいたようだが、西園寺の言うように、そういった下世話な人間は全体の中では意外に少数だった。
声や主語の大きい者はどこにでもいるが、何も言わないまともな人間が大多数なのだ。
やがて、噂そのものが霧散してゆく。人の興味の移り変わりの早さを、改めて実感した。
七月に入る頃には、新井の話も三井の話もあまり耳にすることがなくなっていた。
「そろそろ一緒に暮そう」
蓮見が言うと、谷と仲直りするのが先だと三井は言った。
(知ってたのか……)
新井の一件の後で、唯一こじらせてしまった関係を三井は見逃していなかった。
「仕事の上でお世話になる人と、うまくやれないんだったら、ダメだよ」
やんわりと窘められて、反省する。
もう一度、きちんと話すと約束した。当たり前のことを、当たり前にやるだけだ。
「谷さん」
現場から戻った夜の駐車場で、谷に声をかけた。昼間の熱気が和らいで、夜はいくぶん過ごしやすい。
数週間のぎこちなさを残して、なんだ、と谷が振り向く。
「谷さん、奥さんのこと好きですか?」
「ああ? 急になんだよ」
照れたように目を逸らし、ごつい手で口元を覆った。
「俺は、確かに若いです」
「ああ」
「でも、谷さんだって、奥さんと結婚した時って、いくつでしたか?」
「え……? 俺か? 俺は、二十二だったか……」
「俺、二十四です」
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