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【23】SIDE三井遥(9)-1 ※R18

 八月の中旬、お盆の時期になるとメーカーも職人も休みに入り、現場は止まる。設計や総務などの内勤部署とともに工事部も休みに入った。  展示場は営業を続けているので、遥には仕事がある。 「すぐそこだけど、ちょっと実家に行ってくる。お盆だし、死んだじいちゃんに線香あげてくるよ」  夏季休暇の初日、朝食の納豆をかきまぜながら蓮見が言った。  蓮見の実家まではクルマで一時間弱の距離だが、最近はほとんど帰っていなかったことに気付く。 「うん。ゆっくりしてきて」 「遥の休みになったら、お母さんのお墓参りにも行こうな」  蓮見は言い、それから箸を動かす手を止めて少し照れくさそうに聞いた。 「うちの家族に、遥のことを言っていいか?」 「え……? なんて?」 「別に、普通に言うだけだよ。好きな人ができたから、一緒に暮らすことにしたって。あと、ついでだから、住民票を移す手続き、してこようと思うんだけど……」  寮に入る際には住民票はそのまま残してきたという。帰る気になればすぐに帰れる距離だし、寮は仮の寝場所のように思っていたからだと蓮見は言った。 「でも、今回は違うだろ。不動産屋の許可ももらったし、ここが俺の家だ」  そうだよな、と目で問われてゆっくり頷いた。 「話していい?」  真摯に、穏やかに聞かれ、遥はもう一度こくりと頷いた。  ぱっと弾けるように、蓮見が笑う。  その笑顔の眩しさに、抑えていた気持ちが溢れ出しそうになる。もう、これ以上待つことは、遥のほうが無理そうだと思った。 「蓮見……」 「うん……?」 「帰ってきたら、お願いがある」 「お願い? 何? 今じゃダメなの?」 「うん。今は無理」

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