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【23】SIDE三井遥(9)-2 ※R18

 蓮見は怪訝な顔をした。けれど、すぐに「わかった」と頷く。 「俺にできることなら、なんでもするよ」 「蓮見にしかできないことだよ」  遥の答えに、蓮見はまた嬉しそうに白い歯を見せた。  夏用のスーツを羽織った遥を、デニムのエプロンを着けた蓮見が見送る。 「後片付けと掃除と洗濯はやっておくし、夜は簡単なものを作って待ってる。好きな時間に帰ってきていいからな」 「泊ってこないの?」 「俺に頼みごとがあるんだろ。線香あげて、役所に行くだけだし、夕方までには家にいるよ」 「そっか」  神妙に頷いて家を出たが、ドアが閉まるのと同時に心臓がドキドキと騒ぎ始める。  遥から欲しいと言うまで、抱かない。そう誓った蓮見は、遥の部屋に泊まった時も、一緒に暮らし始めて二週間が過ぎた今も、本当に一度も遥に触れてこなかった。  蓮見の引っ越しを機にセミダブルのベッドを処分し、二組の布団を敷くようになった。その布団に並んで横になると、セミダブルで身体を寄せ合って眠った時より蓮見が遠い。手すらつながない夜もある。  身体を重ねなくても、幸せだった。朝と夜、必ず顔を見ることができる。それだけで遥は十分嬉しかった。  蓮見が好きで、言葉にできないくらい好きで、身体だけでも心だけでも、どんなものでも蓮見がくれるものなら全部が宝物だ。そう、何度も思った。  それでも、熱を分け合う歓びを身体は知っている。エアコンを効かせたクルマに乗り込みながら、火照る頬に手を添えた。  蓮見に触れてほしい。  遥の全部が、そう願っていた。  身体の熱だけを求めているのではないと、蓮見は言った。自分の若さを持て余し、そのせいで何かが遥に伝わらないと、もどかしそうに眉を寄せて。  身体だけでもいいと、どんなものでも蓮見が求めてくれるなら、遥は全部差し出したいと思っていた。けれど、蓮見が遥に「わかれ」と望むのは、遥が思うよりずっと深くて優しい何かなのだ。  永遠に消えない光のような、蓮見の魂そのもの。それを受け取れと言ってくれる。  梓の墓の前で蓮見の顔を見た時に、本当はすでに、遥はそれを受け取っていたのだと思う。

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