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【24】SIDE三井遥(10)-4
「谷さんだって、俺より若い時から奥さんと子どもと生活していくために、一人で働いてる。俺にだってできる」
「そっか。なんだか、頼もしい」
「そうだよ。マジで、信じて。一人で抱え込まないで、遥が俺に頼ってくれたら、そのほうが何倍も嬉しい。俺が嬉しいんだから」
「うん。うん……。ありがとう」
ありがとう、と繰り返し蓮見の背中を抱き返す。蓮見は一度しっかり遥を抱きしめてから、腕を解いた。
「あと、俺も貯金を始めた」
「え、そうなの?」
「うん」
蓮見がにこりと笑う。眩しい笑顔だ。
「家を建てようと思って」
「家……? どこに? ていうか、誰の?」
「遥と俺の家だよ。場所はまだ決めてないけど、長いローンを組んで、一生かけて返していくんだ。それで、その間もその後もずっと遥とそこで暮らす。遥と俺の、幸福の箱を建てる」
「蓮見……」
言葉が見つからずに目を見開いていると、「崇彦だよ」と笑われた。
「でも、遥が大学に行くとなると、そっちのほうが先だな。家を建てるのは、その後にしたほうがいいかもな」
蓮見は真剣に、腕組みをして考え始めた。
「遥が卒業したら、家を建てよう。一生分のローンを組んで。返し終わる頃には、俺も遥もじいさんになってるな。でも……」
返し終わっても、ずっと、一緒にいような。
そう言って、また蓮見が笑う。
遥は頷くが、その顔はもう滲んで見えなくなっていた。鼻の頭がじんと熱く痺れて、痛かった。
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