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【24】SIDE三井遥(10)-5

 蓮見が焼いたベーコンエッグに遥がレタスとミニトマトを添える。トーストとコーヒーをそれぞれテーブルに運んで手を合わせた。 「それじゃあ、墓参りは九月にするか」 「うん」  有休を消化するようにと別府から言われていた。秋の彼岸もあるし、その頃に行ければちょうどいいと二人で話し合う。  ふと、蓮見が言った。 「そう言えば、あの時、遥はずいぶん長いこと手を合わせてたな」  遥を迎えに来た日のことを、蓮見が懐かしそうに話し始める。  雨の後の白い靄が立つ霊園で、フランク・ロイド・ライトの「自然の家」を開いていた。図版や写真を眺めているうちに日が射してきて靄が晴れ、蓮見の髪を風がふわりと撫でていった。  その時に、ふいに思いついたのだという。 「そうだ……。家を建てようって。何かのコマーシャルみたいに、急に思った。で、俺はすぐに、それはいい考えだと思った。いつか、きっと、どこにでもあるような普通の家を建てよう。それで、そこで遥と暮らそうって、あの時に決めたんだ」  長い長いローンを組んで。ずっと、一生。 「そこにいてくれるのは遥だけでいい。遥がいれば、そこが俺の幸福の箱になる」  それから言った。 「遥にとってもそうなるといいんだけど」 「なるよ……。絶対、なる」 「うん」  ――お母さん。  あの時、遥は、どこへも行けずに三日考えて、梓の墓を訪ねた。墓の前で手を合わせて梓に話しかけた。  少し長い話になったが、今思えばあの時には、もう心は決まっていたのだとわかる。  長い長い祈りの後で振り向くと、蓮見の姿があった。 「蓮見……?」  驚く遥に、蓮見はただ「迎えに来た」と言った。「帰ろう」と。

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