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第4話

目が覚めた時、ベッドの上で上体を起こすと、足枷に繋がっている鎖がジャラッと音を鳴らした。 (なんで?) 今自分が置かれている状況が理解できず、足枷に手を伸ばす。 外れるはずもなく・・・・・・ なんとか足枷を外そうとするのだがガチャガチャと音が鳴るだけで、自分の足に爪が食い込んで、血が滲んでシーツを濡らした。 それでも、今この場から逃げ出さなければならないと、大翔は必死に足枷を外そうとしている。 ぽたり、ぽたりと鮮血がシーツを染めていく。 「やめろ」 フワリと背後から抱き締められ、腕を掴まれた。 ビクリと大きく身体が振るえ、大翔は息を呑んだ。 指先が震える。 「何もしないから・・・・・・自分の事を自分で傷つけるのはやめてくれ・・・・・・大翔」 名前を呼んだその声はとても優しかったから、強張った大翔の身体から少しだけ力が抜けた。 こくっと生唾を飲み込む。 喉の奥がヒリッと痛んだ。 「・・・・・触ん、な・・・・・・は・・・・・・なせ・・・・・・」 漸く口にした言葉は小さく、掠れていたけれど、ちゃんと相手に届いたらしく、背後から抱き締めていた気配が消えた。 トン、トン・・・・・・ 同時に、部屋の扉が控えめな音を立てて、少しだけ開かれた。 「ごめん・・・・・・入ってもいいか?足の傷、手当てしないといけないから・・・・・・」 さっき背後から聞いた声が扉の隙間から聞こえてきて、大翔は一度後ろを振り返った。 もちろん、そこには誰もいない。 大翔が返事をするまで相手は中に入ってこないつもりらしい。 「大翔?」 許可を催促され、大翔は自分の足をチラッと見てから再び扉に視線を戻した。 足枷を外そうとしていた時には感じなかった痛みが、今ジンジンと訴えかけている。 「わかっ・・・・・・た・・・・・・」 生唾を飲み込んで、じっと扉を見詰める。 中に入って来た男は、何処か淋しげな笑みを浮かべていた。 手に持っていた救急箱をベッドの上に置いて、手際よく作業を始める。 「それ・・・・・・取って・・・・・・くれよ・・・・・・」 手当てをしてくれるのはいいが、だいたい足枷なんて嵌めるからいけないんだ。 「それを外したら、また逃げるんだろ?俺たちの前からまたいなくなる気だろ?」 そう言って突然目の前に姿を現したのは瞬だった。 彼に対して未だ恐怖が支配する大翔は、繋がったままの足をバタつかせてベットから落ち掛けた。 床に落ちる寸前、永久が大翔を抱き締める。 「瞬!下にいろって言っただろ!!」 男に怒鳴られると、彼はまだ言い足りないのだろう不服そうな顔をしたが、部屋から出て行った。 「ごめん。後で瞬にはきつく言っておくから・・・・・・コレは・・・・・・ごめん、外せない」 この男も足枷を外したら大翔が逃げると思っているのだろう。 「あんた達・・・・・・いったいなんなんだ・・・・・・俺をどうしようってんだ?」 「別にどうもしない・・・・・・ただ、大翔に何があったのか調べる」 辛そうな笑みを浮かべる彼に疑問を抱く。 「俺にって・・・・・・どういう、こと?」 そもそもこの屋敷の住人が、なぜ自分のことを知っているのか? 「五十年前にここをフラッと出て行ったっきりだったんだ・・・・・・そして再び会えたと思ったら、お前は俺たちの事を知らないって言う・・・・・・大翔?」 「五十年って・・・・・・あんた何言ってんの?」 目の前にいる男は、どう見ても自分と同い年か、一つ上か・・・・・・大して歳の差はないように見えるのだが? 「俺、まだ二十歳前・・・・・・だ・・・・・・だ、から人違いだろ?」 「違わない・・・・・・大翔こそ、記憶喪失なのかなぁ?」 永久の両手が大翔の頬に触れて、ジッと瞳を覗き込まれる。 (赤い・・・・・・目・・・・・・) 永久の親指が大翔の下唇をなぞって、すっと目が細められた。 顎を固定され、いきなり口を開かされると、舌を引っ張り出されるかのように指を入れられた。 「あがっ!!」 「・・・・・・牙がない」 (当たり前だろ!!) 暴れようとしても、永久の力は大翔を押さえ込んでいて身動きが取れない。 ジワリと涙が浮かんできて、大翔の頬を伝う。 「血の味は同じなのに、なんで牙がない?これじゃぁまるで・・・・・・」 ぺろっと永久が大翔の涙を舐め取った。 「人間みたいじゃないか?」 「い、いやだ!!!」 指が離れて、大翔の髪を掴む。 グッと顎を上げるように仰け反らされて、首筋に永久が顔を埋めた。 「大翔」 「あっ!!」 ズキッとした痛みが走る。 ジュルッと耳元で水音が聞こえた。 「いや・・・・・・やっ、やだ・・・・・・あっ・・・・・・」 「兄ちゃん!!」 弟に呼ばれて我に返ると、腕の中に意識をない大翔がいた。 「瞬・・・・・・久遠をここに呼べ」 ぐったりとした大翔を強く抱き締めて・・・・・・ 「え?久遠ちゃん?」 「早く呼んで来い」 地を這うような低い声。 この声を発する時の兄は超絶機嫌の悪い時だと身を持って知っている弟は、慌てて部屋を飛び出して行った。 「・・・・・・大翔」

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