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第12話

(絶対って言われると、見に来たくなっちゃうのは仕方がないことだよな?) 隣人のスケジュールはバッチリ頭の中に叩き込んである。 (この辺りだっけ?) ふらふらと公園付近を歩いていたら、見知らぬ奥様が聞いてもいないのに、近くで特撮のロケをしているという情報をくれた。 きょろきょろと辺りを見回して、それらしい団体を発見。 野次馬も何人かいるようだ。 (ん、間違いないな・・・・・・こっちから大翔の匂いがする) ニコニコと、他の野次馬に混ざって大翔の出番を待つ。 目の前をヒーローが行き交い、子供達が目を輝かせている。 休憩中でもヒーローは気が抜けず、手を振る子供達に笑顔で応えていて・・・・・・ そんな彼らの間から、1人の女性が一直線、永久に向かって近づいてきた。 「あの・・・・・・」 じっと見詰められる。 (いや、悪い気はしないけどもさ?) 近くにいる野次馬も、スタッフらしき女性に話しかけられている永久に視線が集まる。 「あの・・・・・・助けていただけませんか?」 両手をガシッと掴まれた。 「はい?」 特撮ヒーローにはお約束の、途中から登場する助っ人ヒーローの役者が事故ったと連絡を受けたのが5分前。 そして、今大翔の目の前に・・・・・・ 「ども」 ペコリと照れくさそうに頭を下げた永久がいた。 事故の知らせを受けた監督がパニクッて、なんとかしろとスタッフに怒鳴り散らした結果がコレだ。 「容姿は申し分ないな・・・・・・」 「え?ちょっと、監督?」 事故の詳しい情報も入ってきてない段階で、代役を勝手に決めてしまって良いのかと誰もが慌てた。 「君、ちょっとカメラの前に立ってみて」 永久は言われるがままに動く。 スタッフの数人は諦めたのか、素直に監督の指示に従って動き始めた。 (・・・・・・大丈夫なのか?) 大翔はその光景を少し離れた場所から見守っていた。 「何、あの人ヒロの知り合い?」 「隣人」 くいっと肩を寄せてきたヒーローに頷く。 「なんか格好良くね?」 女性スタッフの何人かは既に頬を赤く染め、普段の自分達に対する態度とは明らかに違う仕草で永久に視線を送っている。 「ホスト」 「ホスト?あぁ、でもなんかなっと・・・・・・く」 最後の歯切れが悪く、不思議そうに大翔が隣の彼を見上げる。 「どうした?大丈夫か?」 ヒーローの顔色が少し悪い気がした。 「だ、大丈夫・・・・・・っつうか、なんか俺、あの人に睨まれた」 何もしてないし、初対面なのに、と大翔にガバッと抱きついて泣き真似する。 (睨むって・・・・・・そんな) 未だ女性スタッフに囲まれている永久に視線を映すと、バチッと目が合った。 (・・・・・・た、確かに目付き悪い・・・・・・なんだよ・・・・・・なんで睨むんだよ?) ぽんぽんっとヒーローの肩を叩いて慰めていると、突然ぐいっと腕を引っ張られた。 「ヒロちゃん、ちょっと」 「え?さ、笹川さん?」 そのまま、ぐいぐいと引っ張って行かれ、永久の前に差し出される。 「へ?」 きょとんっと永久を見上げた。 「君からもお願いしてくれないか?ヒロちゃんがお願いしてくれたら考えるって言ってくれてるんだ」 さっきまでの喧騒な雰囲気は何処へやら、目の前の永久はニッコリと笑った。 「・・・・・・はい?」 逆に大翔がギロッと永久を睨み上げた。 「だって、ほら・・・・・・ヒロちゃんと今度の新キャラ、絡む率多いんだよ・・・・・・ヒロちゃん人見知りでしょ?偶然とは言え、ヒロちゃんちのお隣さんをスタッフが見つけてきたわけじゃない?」 永久は出会ったばかりの人間に、プライベートな事情をどこまで話したのだろうか? 「心配だったんだよ、実際・・・・・・新しい人とすぐに打ち解けられるかどうかって・・・・・・でも、その点、彼なら心配いらないでしょ?」 永久の笑顔は消えない。 周囲のスタッフも期待に満ちた視線を大翔に送っている。 (この状況で俺に拒否権はあるんですか?) 大翔は大きな溜息を吐き出した。 「俺は・・・・・・別に構いませんが・・・・・・本当の俳優さんの方はどうされるんです?」 そう言った途端、背後で女性スタッフが小さく黄色い悲鳴を上げたが、それは聞こえなかったことにする。 「あぁ、それなら今し方連絡があってね・・・・・・肋骨一本にヒビ、右足骨折程度で済んだらしいから、こちらで丁寧に対処しておくよ」 (程度って・・・・・・まぁ、命に別状はなさそうで良かったけど) 問題ないと高笑いしながら離れていくスタッフの背中を見送り、大翔はもう一度大きな溜息をついた。 「大翔」 くしゃっと髪を掻き上げられて、その手を払う。 「なに?」 「俺いろいろ分からないことばっかだから教えて」 手取り足取り、じっくりと・・・・・・ 「あぁ・・・・・・じゃぁ、まずは・・・・・・」 ぐいっとニッコリ笑顔の張り付いた頬を抓り上げた。 「ヒーローが悪役にベッタリくっついてくんじゃねぇ!」

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