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第14話

「待てって言ってんだろぉ!!」 「うわっ、って・・・・・・なんだよ、突然・・・・・・」 バチッと目を開けたと同時に、隣人の顔がドアップで飛び込んできて大翔は固まった。 「大翔?」 「ななな何やってんだよ、永久!!!」 永久の顔面を右手で思い切り押しどける。 ゴキッと鈍い音が鳴った気がしたが構ってやらない。 声にならない声を上げて少し涙目になった永久は、首の後ろを押さえながら大翔に持っていた目覚まし時計を渡した。 デジタル表示のディスプレイには一本の亀裂が縦に走っている。 「自分でやったんだぞ、ソレ!」 次に何を言われるのかを予測していたのか、大翔が口を開くと同時にその言葉を遮って人差し指を時計に突きつけた。 まったく覚えはないが、他に時計を壊す人間が思い浮かばずに唇を噛む。 大きな欠伸をしながら、もぞもぞとベッドから漸く抜け出した大翔を残し、永久がキッチンに入って行く。 (なんか夢見てたと思うんだけどなぁ?) 寝癖のついたまま洗面所へ向かう。 「大翔、今日何時入り?」 「ん~、俺はぁ・・・・・・・・・・・・?」 歯ブラシに歯磨粉を乗せたところで、はたっと動きが止まる。 「永久」 名前を呼んでみる。 「ん?」 返って来た返事に、大翔は洗面所から飛び出した。 「なんでお前が俺んちにいるんだぁ!!」 永久は隣の部屋。 「なんでって・・・・・・鍵開いてたし?今日の撮影現場一緒だし?朝一緒に食おうと思ってたし?」 「全部半疑問系でしゃべるんじゃねぇよ!」 ワナワナと歯ブラシを持つ手が震える。 「なんだよ?今更照れることねぇだろ?一緒に寝た仲じゃん?」 永久はこちらに背中を向けたまま、朝食の準備を続けている。 「・・・・・・一緒に・・・・・・寝た?」 全く見に覚えが無い。 「大翔震えてたからさぁ・・・・・・寒いのかなぁと思って、朝まで抱き締めてやってたろ?」 振り返った永久の顔には得意満面な笑みが浮かんでいる。 「だから、良い夢見れたろ?」 「永久っち・・・・・・なんやほっぺた腫れてんで?」 バトルスーツに身を包んだ仲間が、永久の頬を突付く。 よく見れば、小さな引っかき傷があった。 「ネコに引っ掻かれたんだよ」 ちろっと永久の視線が大翔を探す。 「あ、そうや・・・・・・永久っち、今晩飲み会、もちろん参加するやろ?」 参加してくれな困る、と付け足され、強制参加決定。 「これで男何人やったっけ?ヒロも入れて・・・・・・」 指折り数える男の隣で、永久は衣装に着替え中の大翔を発見した。 「大翔も参加するのか?」 「彼女がおらん寂しい男に声を掛けてんねん・・・・・・あ、永久っちは彼女おった?」 いたと言えば、参加しなくてもいいのだろうか? 「・・・・・・いや、いないけど」 「ほんまに?俺から見ても永久っちってイケメンさんやのに?」 (顔が嬉しそうだけど?) ちらっと再び大翔に視線を飛ばす。 バチッと目が合って、ギロッと睨みつけられ、すぐにふいっと顔を背けられた。 (・・・・・・まだ今朝のこと怒ってる?) 何が悪かったのか解らない。 「ん?なんや?ヒロとケンカでもしてんの?」 肩を組まれて、永久は低く唸った。 「・・・・・・実は」 原因が解らない事には謝りようがないと、今朝の出来事を話してみる。 うんうん、と頷いてニコニコ笑顔で聞いていた男の顔が徐々に引き攣っていく。 「・・・・・・で、布団に潜り込んで朝までずっと抱き締めてやって・・・・・・」 男が盛大な溜息をついた。 「永久っち・・・・・・それは夜這いというやつではないのかね?」 「よば・・・・・・」 バキッ!! 「いってぇ!!」 「ひっ、大翔?」 永久の背後で、台本を丸めた大翔の肩がワナワナ震えている。 「アホな相談してんじゃねぇ!!」 真っ赤になった大翔はそのまま踵を返し、楽屋を飛び出して行った。 「・・・・・・あ、あかん・・・・・・永久っちのこと言えん・・・・・・今、ヒロが可愛く見えた」 (ったく・・・・・・何考えてんだ、永久はぁ!) 屋上へ続く扉を開け、空を見上げる。 風に流されていく雲のスピードが速いように感じた。 (・・・・・・夜這いって) ガシガシとセットされていた髪を掻き乱し、しまったと思ったものの、それも後の祭り。 「顔まだ熱いなぁ」 両頬を押さえ、ムッと唇を突き出す。 (ったく・・・・・・もう!) 再び楽屋へ戻ろうと溜息を吐き出した。 一歩、屋内に向かって足を踏み出したとき、違和感を感じて止まった。 ふと喉に触れる。 (喉が・・・・・・渇いた)

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