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第16話

数分後、腕の中で眠る大翔を抱え、永久は夜の空を飛んでいた。 「大翔・・・・・・前と一緒で、偏食じゃなきゃいいけどな?」 くすっと笑って大翔を抱え直す。 「満月は僕達の魅力を必要以上に引き立ててくれるから狩りには絶好の日なんだけど・・・・・・まぁ、今夜は仕方ないか」 頭上から声が降って来て、大翔を抱えて飛ぶ彼と平行して跳び始めた久遠が苦笑する。 「確実に大翔くんの中で変化が起こってるね」 「久遠、急に気配消して近づくな・・・・・・確かに大翔に変化が起こってるみたいだけど?」 永久は嬉しそうに頷く。 けれど、大翔へ変化を促したのはなんなのだろうか? 「さぁ・・・・・・あ、君が近くにいるから、とか?」 街外れにひっそりと建つ廃ビルの屋上に足を着く。 「牙はまだみたいだけど・・・・・・そのうち」 大翔の顔を覗き込み、唇に触れた。 その感触がくすぐったかったのか、大翔は身を捩って永久に抱きつくが、覚醒はしなかった。 「腹いっぱいか・・・・・・うらやましいなぁ・・・・・・僕は今夜まだ獲物にありつけてなかったのに」 「まぁまぁ・・・・・・帰ったら、輸血パックがあるだろ?」 「あれ不味いんだよ・・・・・・やっぱり、生きのいい血が飲みたい」 ジトッと久遠が永久を睨み上げる。 「そういやぁ、永久くんは大翔くんの血を飲んだんだよねぇ?」 「まぁ、成り行き上」 「僕はまだ一滴も口にしてないのに・・・・・・」 嫌な予感が頭を過ぎり、大翔を抱いた腕に力が入る。 「この際永久くんでもいいや」 久遠の腕が伸びてきて永久の顎を掴んだ。 「ちょっと待て!これからまだ飛ぶのに・・・・・・」 「大丈夫・・・・・・僕が二人抱えてってあげるから」 久遠の足がふわりと宙に浮かんだ。 永久は久遠の牙から逃れようと後ろに下がっていくが、とうとう背中が壁についた。 「心配しないでいいってば・・・・・・いただきまぁす」 「お、お手柔らかに・・・・・・」 首筋に牙を突きたてられた感触があった。 大翔は落とすまいと腕に意識を集中していたが、次第に視界がぼやけて、力も抜けていって・・・・・・ 「永久くん?」 大翔が落ちかけている、と久遠は大翔を肩に担ぎ上げ、再び永久の首筋に顔を埋めた。 「・・・・・・久遠・・・・・・も・・・・・・いい加減に・・・・・・」 自分の足では立っていられず、久遠に支えてもらっていた。 「あと少しだけ」 久遠はまだ離れない。 「永久くん?」 満足するまで永久の血を吸い、ぺロッと唇を舐めて顔を上げた。 「あ・・・・・・吸い過ぎた?まぁ、いっか・・・・・・帰ったら輸血パックあるしね!」 ぐったりと体に力が入らない永久を大翔同様肩に担ぎ上げる。 「よし、じゃぁ、一気に飛んでアパートまで帰るよ!」 二人を担いだまま久遠の体が浮かび上がる。 (輸血パック・・・・・・) 指一本動かせない状態ではあったが、永久の意識ははっきりしていた。 (あれ・・・・・・不味いんだよ) 血液型のシールが貼られたパックを思い出し、永久は小さな溜息を吐き出した。

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