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第18話
突如大都会の真ん中に出現した黒き城の最上部・・・・・・
地上を支配しようとするザン・コーク帝國、帝王サイアークの前に膝をつき、四将軍の1人パンドラが頭を垂れている。
「今回も失敗のようだな、パンドラ」
主の声には怒りが含まれていた。
「申し訳ありません・・・・・・次は必ず・・・・・・」
パンドラは恐怖で声が震えている。
地上で繁栄してきた人間達が作り出した物を破壊するために、パンドラが信頼を寄せる配下を送り込み・・・・・・
魑魅魍魎を使役し・・・・・・
「必ずやオリンピアを倒し、サイアーク様の御前に奴らの首を」
毎回、華激戦隊オリンピアに計画を邪魔されて・・・・・・
「サイアーク様」
それまで黙ってパンドラの背後に立っていた銀髪の男がコツッと音を立てた。
「・・・・・・ルシファー」
パンドラがギロッと彼を睨み上げる。
オリンピア討伐はパンドラに命令されたこと。
「お前の事は俺が守ろう」
ルシファーはパンドラの隣に膝をつき、ぼそっと呟いた。
「・・・・・・え?」
(そんな台詞あったっけ?)
しかも、今の音量ではマイクも拾えていないくらいの小声だ。
「サイアーク様、次の出撃は我にご命令を」
「ルシファー!貴様!」
カッと頭に血が昇ってパンドラが立ち上がる。
「パンドラ」
静かにルシファーがパンドラを見上げ・・・・・・
「パンドラ、お前は疲れているのだ・・・・・・少し休んだ方がいい。その間、お前の代わりに俺が出撃しよう」
「・・・・・・お疲れ様で~す」
スタジオに足を踏み入れた永久に1人のスタッフが声を掛けた。
「ども」
目の前に組まれた黒き城の内部では、帝王サイアークの前に跪くパンドラこと大翔とルシファーが芝居の真っ最中だった。
本来なら永久はこのスタジオに来る予定は全くなかったのだが、昨夜の事が気になって大翔の様子を見に来たのだ。
(ルシファー・・・・・・てめぇ、大翔に近すぎじゃねぇか?)
ひくっと片眉がつり上がる。
「ん?」
じっとルシファー役を睨みつけていて違和感。
忙しく動き回るスタッフを1人捕まえた。
「なぁ、あのルシファーって・・・・・・」
何かが違う気がした。
「あれって代役?」
永久は華激戦隊オリンピアのブルーポセイドンとしてルシファーと何度も刃を交えている。
「なぁに言ってんですか?本人ですよぉ~」
おかしなことを言うなぁ、とスタッフは笑いながら離れていく。
(そうかなぁ?)
わしゃわしゃと髪を掻き乱して、再び視線をルシファーに戻す。
化粧の仕方が違うのか?
それとも、衣装のバージョンアップが原因か?
「休憩入ります」
スタジオにスタッフの声が響き渡り、緊張の解れた大翔がぐっと身体を伸ばしながらセットから出てきた。
「永久?」
こちらに気付いた大翔に気を良くして近づこうとした瞬間・・・・・・
「あぁ、永久。君、見学かい?」
大翔の背後にルシファーがくっついていた。
ルシファーの口元には薄らと笑みが浮かんでいる。
そして、先程聞こえた男が発した声は、永久の知っているルシファーの声とは異なっていた。
(マジで誰だ、こいつ?)
この男、本物のルシファーではない・・・・・・
そんな男の腕は大翔の肩に、親しげに乗せられている。
(そんなヤツの腕振り払えよ、大翔!)
「永久、どうした?」
大翔は不思議そうに永久を見詰めてくる。
(大翔、お前は気付いてないのか?)
自分より一緒にいることが多い共演者が、まったくの別人と入れ替わっているというのに。
永久の腕が伸び、大翔の手首を掴むと、そのまま彼を引っ張り寄せた。
「うわっ、ちょっ、トワッ!」
パンドラの戦闘服は抱き心地が良くない。
「おい、永久?」
ギッとルシファーを睨み付けたまま、大翔を抱き締める腕に力を込めた。
「あんた何者だ?」
永久の問いに対して、ルシファーは笑みを浮かべるだけ。
「ちょっ、永久、痛いって」
大翔の声は届いていないのか、永久の腕の力が緩む事は無い。
「離せよ、永久」
ルシファーを睨んだままの永久の耳を引っ張る。
「痛い痛い痛い痛い!ヒ、大翔?」
漸くルシファーから視線を外し、永久の視界に大翔が映る。
真っ赤な顔で、ムッと唇を突き出した大翔の指はまだ永久の耳を引っ張ったまま。
だが、永久の腕は大翔を捕まえたまま、緩む気配は無い。
「何やってんだよ!ってか、いい加減離せ!」
コレコレッと、自分を抱き締めている腕を上から叩く。
「だっ・・・・・・」
だってコイツが・・・・・・と続けようと再び顔を上げるが、そこにルシファーの姿はなかった。
(え?あれ?何処行った?)
バタバタと腕から逃れようとする大翔を逃がさないように捕まえたまま、永久はキョロキョロとスタジオの中を見回し、視界の端に銀色が映り込んだ。
ルシファーの髪は銀色・・・・・・
スタジオの入口は、少し薄暗くなっており・・・・・・
永久の視線を感じたのか、スタジオから出ようとしていたルシファーが振り返ると・・・・・・
(あいつ!)
ギッと永久の視線が強くなる。
「おい、永久!」
永久の視線を追ってルシファーを見付けた大翔は、永久の態度に驚き、慌てて両手を伸ばした。
大翔の手が永久の両頬を押さえ、ぐいっと顔を引き寄せられ・・・・・・
「何やってんだ、お前!」
間近に迫った大翔の顔に、ドキンッと心臓が跳ねた。
(近っ)
一瞬キスされるのかと思った。
「あいつに何かされたわけ?」
が、今は構っていられない。
「・・・・・・大翔」
「どうしたんだよ、永久・・・・・・なんか変だぜ?」
永久がなぜルシファーを睨んだのか、その行動が理解できない。
しかも、アイツちょっと気に入らないんだよね、程度ではない。
永久はルシファーを警戒しているようだ。
「ルシファーと何かあったのか?」
「大翔」
じっと見詰められる。
(大翔、お前今見なかったのか?)
大翔の両手に顔の位置を固定されたまま、目線だけを動かしてルシファーの姿を探したが、既にスタジオの何処にも彼の姿はなかった。
(あいつの目・・・・・・)
振り返ったルシファーの目が・・・・・・
(赤く光ってたろ?)
永久は再び大翔を抱き締めている腕に少しだけ力を入れた。
腕の中で大翔が小さく息を吐く。
「なんだよ?どうした?」
永久の手に大翔の手が重ねられ、更に声音は優しい。
「俺は何処にも行かねぇぞ?」
大翔の肩に顔を埋めた永久の耳元で囁く。
「・・・・・・あぁ」
永久が小さく震えていた。
「しょうがねぇなぁ・・・・・・もうちょっとだけサービスしてやるよ」
大翔は永久の背中に腕を回し、安心させるようにポンポンッと叩いた。
「お2人さん、仲が良いのは分かったから、他所でやってくれるかな?」
スタジオの中を忙しく動き回るスタッフの1人にそう言われるまで・・・・・・
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