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第19話

赤い月の夜。 明るいネオン街から外れて、壁に手を付いた。 (アイツ・・・・・・) 大翔は小さな溜息をついた。 手の震えが止まらない。 (・・・・・・なんだったんだ・・・・・・一体) 右足を引き摺って、狭い路地裏を進んで行く。 口の中に広がる血の味・・・・・・ペッと吐き出して切れていた唇の端がチリッと痛み顔を歪めた。 (明日こんなんで撮影行けねぇよなぁ) このままスタジオへ行けば、スタッフも共演者も心配する。 行かなくても心配されるけれど、彼らに余計な心配は掛けたくない。 今までの経験上、右足の怪我は・・・・・・折れてはいないだろうが、痛み方からしてヒビくらいは入っているだろう。 明日になれば今の倍に腫れ上がり、歩く事もままならないかもしれない。 「・・・・・・はぁ、やっと帰ってきたぁ」 漸く辿り着いたアパート前、自分ちの部屋の明かりはついていない。 エレベーターはなく、一段一段、壁にもたれながらゆっくり上がっていく。 幸い隣の住人とすれ違う事は無く、この状況を見られずに済んだ。 玄関の鍵を取り出そうと上着のポケットに手を入れて一瞬固まる。 「・・・・・・あれ?」 ポケットに入れた指に何も触れない。 右も、左も、どれだけ指を動かしても鍵が見付からない。 「まぁ、こんなこともあろうかと・・・・・・・」 普段予備キーを隠してある場所から鍵を取り出して部屋に入った。 パチッと電灯スイッチを入れたが、照明は点滅を繰り返すため、靴を脱いでからすぐに消した。 (電球新しいやつ何処にあったっけ?) 壁に手をつきながら真っ暗な中を進む。 勝って知ったる我が家だ。 家具の配置は頭に入っている。 そのまま、ベッドに倒れ込んだ。 「やべぇ・・・・・・もう・・・・・・動けねぇ・・・・・・」 徐々に意識が遠のいていく。 (足・・・・・・手当てしねぇと・・・・・・なぁ・・・・・・) 大翔の意識はぷつりと途切れた。 ピンポーン・・・・・・ピンポーン・・・・・・・・・・・・ダンダンダン!! 大翔の家の扉の前で、瞬は一向に現れない家主にイライラを募らせる。 「大翔くん!!いるんだろ?」 鍵穴に刺さったままの鍵を抜き取り、扉を開けるが、その先は闇。 道路からこの部屋へ続いていた血の跡を追ってきた瞬は近くのスイッチに手を伸ばした。 パチッと音はするが、すぐには点灯しない照明に焦れて中に上がり込んだ。 靴を脱ぐのは忘れていたけれど。 「大翔くん!!」 自分が住む屋敷と比べれば随分と部屋数も少なく、すぐに探していた人物は発見できた。 「大翔くん?大翔くん!!」 ベッドの上で、うつ伏せに倒れたままピクリとも動かない大翔の身体を何度か揺する。 ぐったりとしたままの大翔の頭を膝に抱えて、瞬は兄のナンバーを押して携帯を耳に押し当てた。 コールは数回。 「瞬?どうした?」 「兄ちゃん、大変だ!」 切羽詰った弟の声に、無言を返す兄。 「大翔くんが!」

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