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第20話

目が覚めると、知らない部屋で寝かされていた。 ぼんやりと、今自分が置かれている状況を確認し始める。 (ここ、何処?) 自分の家でない事は確かだし、泊まったことのある友達の家のどれでもないことも確かだ。 「痛っ!!!」 寝返りを打とうとして、右の脇腹と右足に、これまで経験した事もないほどの激痛が走った。 清潔感漂う白いシーツを握り締め、痛みが通り過ぎるのを待つ。 薄っすらと開けた視界に、チューブが見えて・・・・・・そのチューブを辿ると、自分の腕に針が刺さっているのが見えた。 更に、逆の手には包帯が巻かれている。 (ここ・・・・・・病院?) 自分の呼吸や、衣擦れの音しか聞こえないココは個室なのだろうか、と大翔はゆっくりと上体を起こした。 「ここ何処だ?」 美術館やテレビとかでしか見たことのない家具や調度品が並ぶ壁際、高い天井からぶら下がる高そうなシャンデリア。 そして自分が寝ているのは天蓋付のベッド。 部屋の中をぐるりと一周見渡して、大翔は腕に刺さったままの点滴の針を乱暴に引き抜きた。 「・・・・・・こんなとこ、治療費馬鹿になんねぇんじゃねぇのかよ・・・・・・冗談じゃねぇ、そんな金うちにはねぇぞ!」 床に着いた途端右足に激痛が走る。 「っく!!」 ぐっと歯を食い縛り、足を引き摺りながら、扉の方へ一歩、二歩、三歩目を踏み出して力尽きた。 床に手をついて、荒い呼吸を繰り返す。 (俺、ちゃんと家に帰ったろ・・・・・・誰がこんなバカ高そうな病院に俺を放り込んだんだ?) 帰宅途中に倒れたら、親切な通りすがりの人が救急車を呼んで病院に運ばれてしまう・・・・・・ 大翔は子供向けの特撮に悪役として出演しているが、まだバイト代で生計を立てている。 (せめて大部屋・・・・・・いや、いますぐ退院しねぇと・・・・・) 漸く辿り着いた扉のノブに手が触れた瞬間、ガチャリと音がした。 「へ・・・・・・うわっ!!」 ノックも無しに突然扉は内側に開き、そのせいでバランスを崩した大翔が背後へ・・・・・・ 「うわっ、馬鹿!!」 どこかで聞いた事があるような声がして、大翔の身体を引き戻した。 「三日も寝ていたくせに何を動き回ってるんだ、お前は!」 (こ・・・・・・この声は・・・・・・?) 頭上から聞こえてくる声に、恐る恐る顔を上げる。 「と、永久・・・・・・?」 つまり、今の状態は、永久に抱き締められているわけで・・・・・・ 大翔は慌てて永久の腕を支えに両足に力を入れて彼から離れようとした。 だが、足にうまく力が伝わらず、余計永久にしがみ付く結果となった。 「大翔」 そのまま、永久は大翔の膝の裏に手を入れ、彼を抱き上げた。 「ぬわっ!!な、何してんだ、永久ぁ!!下ろせ!!下ろせよ!!!」 「下ろせと言うわりには、お前の右手がさっきから俺の腕を掴んだままだ」 たぶん、それを離すとバランスが崩れ、確実に永久に全身支えられる形となる。 「だ、だいたい!!なんで、ここに永久がいるんだ?!」 永久に指摘されたことはこの際無視して話を進める。 「ここは俺の屋敷だ」 「へ?」 病院だとばかり思っていた部屋は、永久の家。 (てめぇ、こんなすげぇ家があって、なんで俺んちの隣に・・・・・・っつうか、あんなボロアパートに?) 大人しくなった大翔を、先程まで寝ていたはずのベッドにそっと降ろす。 「で、その怪我の原因は?」 キツイ眼差しで見下ろされて、大翔は一瞬息を飲んだ。 「俺との撮影が終わって、お前1人で先帰って・・・・・・で、それから?」 大翔は小さな溜息を零した。 「別に何も無い・・・・・・勝手に1人で転んだだけだ」 だから、と再び大翔はベッドから降りようとした。 「だから出てく・・・・・・撮影に行かないと・・・・・・」 人に迷惑を掛けたくない。 そう永久の横を通り過ぎようとしたのだが、彼の腕がそれを阻んだ。 「大翔」 大翔は自分を見下ろす男を嫌そうに見上げた。 強く掴まれた腕が外せない。 「転んだだけで、そんな怪我するわけねぇよな?」 確かに・・・・・・苦しすぎる言訳だったと後悔する。 掴まれた腕をぐいっと引っ張られ、ベッドに座らされた。 「ちゃんと説明しろ」 説明しろと言われても言いたくない。 (なんで俺怒られてるみたいな感じになってんだ?) キュッと唇を噛み締める。 「お前、そんなんで撮影出来ると思ってる?」 もっともな事を言われ、更に唇を強く噛む。 「コラ!そんなに強く噛んだら切れるぞ」 永久の親指が大翔の唇に触れた。 「大翔・・・・・・撮影の方は心配しなくていいから、何があったのか俺に言え」 「・・・・・・だから、別に何も」 「兄ちゃん!」 突然バタンッと勢い良く扉が開き、体格のいい男が飛び込んできた。 驚いた拍子に身体に力が入り、走った痛みに顔を顰めた。 「瞬!ノックは!」 永久は振り返らずに叱り付ける。 「・・・・・・ご、ごめん・・・・・・なさい」 飛び込んできた男の頭部に、シュンッと垂れた耳が見えた気がして大翔は目を擦った。 「で?」 瞬には大翔の怪我の原因を調べさせていた。 「え、あ、うん・・・・・・あのね、大翔くんがいた孤児院がね」 ピクッと大翔の身体が震えた。 「孤児院?」 大翔の反応に気付き、永久が手の力を緩めた。 「なんだよ・・・・・・なんなんだよ、お前らまで・・・・・・一体何を・・・・・・」 大翔の身体がガクガクと震え始める。 (兄ちゃん、これじゃ、前と変わらないよ!) 瞬はチラッと永久に視線を飛ばした。 大翔の表情から自分達に恐怖を感じているのが伝わってくる。 「大翔、落ち着いて。俺達は何もしない」 震える身体を永久はそっと抱き締めた。 「・・・・・・だって・・・・・・孤児院・・・・・・」 (その孤児院に何かあんのか?) 無意識な大翔の腕が永久の背中に回されて、ぎゅっとしがみ付いてきた。 「大丈夫だ・・・・・・大翔」 落ち着かせるように耳元で名前を呼び、背中を擦ってやる。 「・・・・・・アイツが・・・・・・アイツ・・・・・・が・・・・・・」 大翔の身体から力が抜けていく。 「アイツ?」 そっと離れた永久が大翔の顔を覗き込んだ時には、既に意識が無かった。 「兄ちゃん」 大人しく壁際に寄って待っていた瞬が、漸くその場を離れて近づいてくる。 永久はそっと大翔の身体をベッドに横たえた。 「瞬、大翔がいた孤児院で何があった?」 大翔の髪を撫でながら、永久が顔を上げた。 「うん・・・・・・大翔くんがいた孤児院は、経営が悪化して数年前に閉鎖されたんだけど」 大翔はバイトをしながら、その孤児院に仕送りをしていた。 しかし、中学卒業したばかりの大翔の仕送りで、傾いた孤児院を立て直す事は出来ず閉鎖。 「その孤児院を閉鎖に追い込んだ業者にはカラクリがあったんだ・・・・・・いろいろ汚い手口で孤児院の経営者を追い込んで・・・・・・」 瞬が強く拳を握った。 「・・・・・・まぁ、その業者の奴等、全員咬み殺してきちゃったけど」 ムゥッと頬を膨らませ、とんでもない事をサラッと口にした。 「お前なぁ」 永久は大きな溜息を吐き出して、前髪を掻き乱した。 「大丈夫だよ!証拠は残してないから!そんなことより!」 大翔が眠っているため、極力声を抑えて瞬が永久に詰め寄る。 (そんなこと?) 大翔が育った孤児院を苦しめ、閉鎖に追いやった業者を始末した後、その足で大翔の様子を見に行こうと向かった。 その途中で大翔の血の匂いを嗅ぎつけ・・・・・・ 「ダンピールがいたんだ!」

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