21 / 92
第21話
ぞわっと全身に鳥肌が立った。
ダンピールとは、人間と吸血鬼の混血。
そして、その多くは狩人として吸血鬼を狩る。
「そいつから大翔くんの血の匂いがしてて・・・・・・」
そのダンピールを尾行した。
「・・・・・・で?」
「でも大翔くんのことが気になって、尾行は使い魔に任せて、大翔くんちに行って・・・・・・」
今に至る。
「じゃぁ、この怪我はそのダンピールがやったって?」
ギロッと睨みつけられ、瞬は首を左右に振った。
「分かんない・・・・・・そいつからは大翔くん以外の血の匂いもしてて」
「どんなヤツだった?」
永久の脳裏に1人の男が思い浮かんだ。
「・・・・・・どんなって・・・・・・うんとぉ・・・・・・長い銀髪のぉ・・・・・・あ?」
瞬の視線が窓へ向けられた。
「使い魔が帰ってきたみたい」
足早に駆け寄って窓を開ける。
涼しい風が部屋に流れ、大翔の頬に掛かった髪を揺らした。
一匹の蝙蝠が部屋の中に飛び込み、天井を旋回して瞬の指先に舞い降りた。
「ご苦労さん・・・・・・で?」
蝙蝠は瞬に向かってキーキー鳴きながら、必死に何かを訴えている。
少し怯えているようにも見えるが・・・・・・
「うん・・・・・・うん・・・・・・え?」
「もう1人のヴァンパイア?」
内容は永久にも聞こえていた。
尾行していた使い魔が目撃したのは、長い銀髪のダンピールが、その後現れた1人の若きヴァンパイアを狩るところだった。
止めを刺される寸前のところで、そのヴァンパイアは逃げ出せたらしいが・・・・・・
その直後、ダンピールに気付かれ、使い魔は尾行を断念して戻ってきた。
「そのヴァンパイアって・・・・・・」
ダンピールの一瞬をついて逃げたらしく、使い魔がキーキー鳴きながら、必死にそのヴァンパイアの特徴を伝えてくるが・・・・・・
「さっぱり分からん」
ピンと来る人物は思い当たらない。
だが、そのダンピールがヴァンパイアを狩っていたのなら、大翔もその手に掛かって怪我をしたのか?
ダンピールからは大翔の血の匂いがしたと瞬は言うのだし・・・・・・
長い銀髪の男の心当たりはある。
いつのまにかルシファー役が入れ替わっていた。
そして、その男の目は赤く輝いた。
「・・・・・・あいつが大翔を」
ボソッと呟いた永久に、使い魔を労っていた瞬が振り返る。
「兄ちゃん、そのダンピールのこと知ってるの?」
永久は撮影所であった男の事を瞬に説明した。
「すっげぇ怪しいじゃん、そいつ」
うーんっと唸る瞬の後頭部を叩く。
「怪しいじゃん、じゃねぇんだよ・・・・・・大翔に怪我させたのソイツに決まってる!」
大声は出せない。
大翔が寝ているから。
「・・・・・・でも俺、違うと思う」
叩かれた部分を押さえながら、瞬は涙目で永久に訴えた。
「はぁ?」
思わず声を上げてしまい、慌てた瞬に塞がれた。
「大翔くんが起きちゃう」
しぃっと人差し指を唇に当てた。
見下ろした大翔は眉間にシワを刻んで、少し苦しそうだ。
永久は薄っすら汗の浮かんだ額に指を伸ばし、張り付いた髪を払ってやった。
ぴくっと大翔の指先が反応を示し、睫が震えた。
「大翔?」
ぼんやりと開いて宙を彷徨った視線が、永久で止まる。
「・・・・・・永久?」
「大翔くっ」
顔を覗き込もうとした瞬を追い払い、永久が大翔の頬に手を当てた。
「ん?どした?」
大翔の瞳が不安げに揺れている。
「・・・・・・そ、ばに・・・・・・い・・・・・・る?」
きゅっと大翔の手が永久の腕を掴んだ。
「いるよ・・・・・・お前の側にいる」
永久は大翔の手に自分の手を重ねた。
大翔は震えていた。
「・・・・・・アイツが・・・・・・来る・・・・・・から」
(アイツ?)
誰の事を言っているのか・・・・・・
それは、銀髪のダンピールの事を指しているのだろうか?
「来ねぇよ」
大翔の手の甲に口付ける。
「俺がお前を守る・・・・・・だから安心して眠れ、な?」
(酷く怯えてる)
「・・・・・・永久」
大翔が永久の腕を引っ張り寄せた。
「アイツ・・・・・・人間じゃ、なかった・・・・・・んだ」
傷に触るといけないから、そっと大翔を抱き寄せた。
「アイツの目・・・・・・赤く光ってて・・・・・・いき、なり・・・・・・」
いつも通りの撮影を終えた帰り道、声を掛けてきた男が、いきなり殴りかかってきた。
その男の目は赤く輝いていて、普通の人間とは思えない怪力で大翔の事を吹っ飛ばした。
「・・・・・・殺され、ると・・・・・・思った。そうしたら・・・・・・ルシファー、が・・・・・・」
長い銀髪の男が現れて、大翔を逃がした。
(ルシファー・・・・・・銀髪の男はダンピールで、そいつは大翔を助けた?)
「皆・・・・・・目が赤く光って、た」
永久の胸に強く顔を押し付ける。
「ガラスに・・・・・・反射した俺の・・・・・・目も・・・・・・」
ピクッと永久が反応した。
「俺の目も・・・・・・赤くて・・・・・・」
今は赤く光っていない。
(お前も俺達と同じ吸血鬼だから当たり前だろって・・・・・・今言ったら信じる?)
大翔を抱き締めている腕に力を込めた。
身体の震えはまだ止まらない。
(・・・・・・いや、まだだ)
大翔の髪に指を入れ、安心させるように何度も梳く。
「気のせいだ・・・・・・お前の目は赤くねぇよ」
そっと大翔の身体を離して、両手で頬を挟んだ。
「大翔」
永久の瞳に映る自分の姿。
「俺・・・・・・変じゃ、ねぇ?」
目は赤く光ってない。
「変じゃねぇよ」
永久はニッと口角を上げた。
「ほら・・・・・・側にいるから、まだ・・・・・・もう少し寝ろよ」
な、と大翔の身体をゆっくり寝かしてやる。
「トワ・・・・・・ッ」
眠れと、大翔の目を覆い隠した。
「なんだよ?添い寝してほしいか?今なら子守唄セットだぜ?」
耳元で囁くと、一瞬にしてボッと顔が真っ赤に染まった。
「添い寝はいらん」
言葉とは裏腹に、大翔の手はまだ永久の上着を掴んだままだ。
「それは残念」
ネオン街から外れた路地裏で、男はとうとうアスファルトの上に座り込んでしまった。
「くっそぉ・・・・・・あのヤロー・・・・・・邪魔しやがって」
身体全身が痺れて動く事が出来ない。
「・・・・・・あいつを・・・・・・もう一度灰にして・・・・・・」
ペッと血を吐き出した。
「あの人のところへ・・・・・・」
コツッと背後で靴音がして、男はギョッと振り返った。
人の気配は全く感じなかった。
そこには・・・・・・
「てめぇ!!」
先程、自分の攻撃が全て無効化されてしまった銀髪のダンピールが立っていた。
「大翔は渡さない」
ダンピールの目が赤く光った。
「なんなんだ!てめぇ!俺達に逆らってタダで済むと思ってんのかぁ!」
壁に手をつき、なんとか立ち上がり、男が虚勢を張る。
「貴様の主の名を言ってみろ?」
ダンピールは静かに問う。
「はぁ?そんなこと、てめぇに教えてやるわけねぇだろぉ!」
ギシギシ軋む身体を動かし、腕を振り上げた。
「ならば用はない・・・・・・死ね」
男の目でダンピールの動きを追う事は出来なかった。
気付いた時には、目の前にダンピールの足元が見えるだけ。
身体は動かず、声を出す事も出来ない。
ダンピールの足が男を仰向けに転がした。
男の顔は恐怖に歪んでいる。
「大翔に傷を付けた・・・・・・貴様の復活は二度と有り得ない」
ともだちにシェアしよう!