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第21話

ぞわっと全身に鳥肌が立った。 ダンピールとは、人間と吸血鬼の混血。 そして、その多くは狩人として吸血鬼を狩る。 「そいつから大翔くんの血の匂いがしてて・・・・・・」 そのダンピールを尾行した。 「・・・・・・で?」 「でも大翔くんのことが気になって、尾行は使い魔に任せて、大翔くんちに行って・・・・・・」 今に至る。 「じゃぁ、この怪我はそのダンピールがやったって?」 ギロッと睨みつけられ、瞬は首を左右に振った。 「分かんない・・・・・・そいつからは大翔くん以外の血の匂いもしてて」 「どんなヤツだった?」 永久の脳裏に1人の男が思い浮かんだ。 「・・・・・・どんなって・・・・・・うんとぉ・・・・・・長い銀髪のぉ・・・・・・あ?」 瞬の視線が窓へ向けられた。 「使い魔が帰ってきたみたい」 足早に駆け寄って窓を開ける。 涼しい風が部屋に流れ、大翔の頬に掛かった髪を揺らした。 一匹の蝙蝠が部屋の中に飛び込み、天井を旋回して瞬の指先に舞い降りた。 「ご苦労さん・・・・・・で?」 蝙蝠は瞬に向かってキーキー鳴きながら、必死に何かを訴えている。 少し怯えているようにも見えるが・・・・・・ 「うん・・・・・・うん・・・・・・え?」 「もう1人のヴァンパイア?」 内容は永久にも聞こえていた。 尾行していた使い魔が目撃したのは、長い銀髪のダンピールが、その後現れた1人の若きヴァンパイアを狩るところだった。 止めを刺される寸前のところで、そのヴァンパイアは逃げ出せたらしいが・・・・・・ その直後、ダンピールに気付かれ、使い魔は尾行を断念して戻ってきた。 「そのヴァンパイアって・・・・・・」 ダンピールの一瞬をついて逃げたらしく、使い魔がキーキー鳴きながら、必死にそのヴァンパイアの特徴を伝えてくるが・・・・・・ 「さっぱり分からん」 ピンと来る人物は思い当たらない。 だが、そのダンピールがヴァンパイアを狩っていたのなら、大翔もその手に掛かって怪我をしたのか? ダンピールからは大翔の血の匂いがしたと瞬は言うのだし・・・・・・ 長い銀髪の男の心当たりはある。 いつのまにかルシファー役が入れ替わっていた。 そして、その男の目は赤く輝いた。 「・・・・・・あいつが大翔を」 ボソッと呟いた永久に、使い魔を労っていた瞬が振り返る。 「兄ちゃん、そのダンピールのこと知ってるの?」 永久は撮影所であった男の事を瞬に説明した。 「すっげぇ怪しいじゃん、そいつ」 うーんっと唸る瞬の後頭部を叩く。 「怪しいじゃん、じゃねぇんだよ・・・・・・大翔に怪我させたのソイツに決まってる!」 大声は出せない。 大翔が寝ているから。 「・・・・・・でも俺、違うと思う」 叩かれた部分を押さえながら、瞬は涙目で永久に訴えた。 「はぁ?」 思わず声を上げてしまい、慌てた瞬に塞がれた。 「大翔くんが起きちゃう」 しぃっと人差し指を唇に当てた。 見下ろした大翔は眉間にシワを刻んで、少し苦しそうだ。 永久は薄っすら汗の浮かんだ額に指を伸ばし、張り付いた髪を払ってやった。 ぴくっと大翔の指先が反応を示し、睫が震えた。 「大翔?」 ぼんやりと開いて宙を彷徨った視線が、永久で止まる。 「・・・・・・永久?」 「大翔くっ」 顔を覗き込もうとした瞬を追い払い、永久が大翔の頬に手を当てた。 「ん?どした?」 大翔の瞳が不安げに揺れている。 「・・・・・・そ、ばに・・・・・・い・・・・・・る?」 きゅっと大翔の手が永久の腕を掴んだ。 「いるよ・・・・・・お前の側にいる」 永久は大翔の手に自分の手を重ねた。 大翔は震えていた。 「・・・・・・アイツが・・・・・・来る・・・・・・から」 (アイツ?) 誰の事を言っているのか・・・・・・ それは、銀髪のダンピールの事を指しているのだろうか? 「来ねぇよ」 大翔の手の甲に口付ける。 「俺がお前を守る・・・・・・だから安心して眠れ、な?」 (酷く怯えてる) 「・・・・・・永久」 大翔が永久の腕を引っ張り寄せた。 「アイツ・・・・・・人間じゃ、なかった・・・・・・んだ」 傷に触るといけないから、そっと大翔を抱き寄せた。 「アイツの目・・・・・・赤く光ってて・・・・・・いき、なり・・・・・・」 いつも通りの撮影を終えた帰り道、声を掛けてきた男が、いきなり殴りかかってきた。 その男の目は赤く輝いていて、普通の人間とは思えない怪力で大翔の事を吹っ飛ばした。 「・・・・・・殺され、ると・・・・・・思った。そうしたら・・・・・・ルシファー、が・・・・・・」 長い銀髪の男が現れて、大翔を逃がした。 (ルシファー・・・・・・銀髪の男はダンピールで、そいつは大翔を助けた?) 「皆・・・・・・目が赤く光って、た」 永久の胸に強く顔を押し付ける。 「ガラスに・・・・・・反射した俺の・・・・・・目も・・・・・・」 ピクッと永久が反応した。 「俺の目も・・・・・・赤くて・・・・・・」 今は赤く光っていない。 (お前も俺達と同じ吸血鬼だから当たり前だろって・・・・・・今言ったら信じる?) 大翔を抱き締めている腕に力を込めた。 身体の震えはまだ止まらない。 (・・・・・・いや、まだだ) 大翔の髪に指を入れ、安心させるように何度も梳く。 「気のせいだ・・・・・・お前の目は赤くねぇよ」 そっと大翔の身体を離して、両手で頬を挟んだ。 「大翔」 永久の瞳に映る自分の姿。 「俺・・・・・・変じゃ、ねぇ?」 目は赤く光ってない。 「変じゃねぇよ」 永久はニッと口角を上げた。 「ほら・・・・・・側にいるから、まだ・・・・・・もう少し寝ろよ」 な、と大翔の身体をゆっくり寝かしてやる。 「トワ・・・・・・ッ」 眠れと、大翔の目を覆い隠した。 「なんだよ?添い寝してほしいか?今なら子守唄セットだぜ?」 耳元で囁くと、一瞬にしてボッと顔が真っ赤に染まった。 「添い寝はいらん」 言葉とは裏腹に、大翔の手はまだ永久の上着を掴んだままだ。 「それは残念」 ネオン街から外れた路地裏で、男はとうとうアスファルトの上に座り込んでしまった。 「くっそぉ・・・・・・あのヤロー・・・・・・邪魔しやがって」 身体全身が痺れて動く事が出来ない。 「・・・・・・あいつを・・・・・・もう一度灰にして・・・・・・」 ペッと血を吐き出した。 「あの人のところへ・・・・・・」 コツッと背後で靴音がして、男はギョッと振り返った。 人の気配は全く感じなかった。 そこには・・・・・・ 「てめぇ!!」 先程、自分の攻撃が全て無効化されてしまった銀髪のダンピールが立っていた。 「大翔は渡さない」 ダンピールの目が赤く光った。 「なんなんだ!てめぇ!俺達に逆らってタダで済むと思ってんのかぁ!」 壁に手をつき、なんとか立ち上がり、男が虚勢を張る。 「貴様の主の名を言ってみろ?」 ダンピールは静かに問う。 「はぁ?そんなこと、てめぇに教えてやるわけねぇだろぉ!」 ギシギシ軋む身体を動かし、腕を振り上げた。 「ならば用はない・・・・・・死ね」 男の目でダンピールの動きを追う事は出来なかった。 気付いた時には、目の前にダンピールの足元が見えるだけ。 身体は動かず、声を出す事も出来ない。 ダンピールの足が男を仰向けに転がした。 男の顔は恐怖に歪んでいる。 「大翔に傷を付けた・・・・・・貴様の復活は二度と有り得ない」

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