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第26話

部屋を飛び出した永久は、大翔の手を引っ張って最下層を目指した。 「大翔」 このまま窓を突き破って飛び出そうかとも思ったが、今の状況の大翔がパニックを引き起こしても拙い。 あの場にいた男達の目が赤く輝いていたことや、今、目の前で永久の目が赤く輝いていることに対して、大翔が触れてこないのは心に余裕がないから。 これ以上刺激してはいけない。 「うわっ」 足がもつれ、何度も転びそうになる大翔を肩に担ぎ、階段を駆け上がる。 (久遠が水島を連れてきたのなら、あいつ何考えてんだ?) 背後から近づいてくる足音を気にしながら角を曲がり、石畳が敷かれた廊下を走る。 (そういえば、水島を紹介しやがったのも久遠だったな) 柱に手をついて身体を回転させ、螺旋階段を下り始める。 大翔はずっと目を閉じて永久にしがみ付いていた。 ふわっと甘い匂いがして、永久が足を止める。 「・・・・・・この部屋」 あまり足を踏み入れた事がない地下。 扉の隙間から匂ってくる甘い匂いに誘われるように、永久の足が向く。 「永久?」 大翔をそっと下ろして、扉に手を当てた。 扉は、ひんやりとしている。 「ここは、確か・・・・・・」 片手はしっかりと大翔の腰を捕まえたまま、ノブに手を掛ける。 ギギギッ・・・・・・・ 低く軋みながら扉は開く。 蝋燭3本の明かりが、ぼんやりと部屋の中を浮かび上がらせている。 近づいてきた足音に、永久は素早く扉を閉めた。 「永久」 「しっ、静かに」 ふっと息を掛けて蝋燭の明かりを消し、暗闇の中、大翔をぎゅっと抱き締めた。 足音は・・・・・・ この部屋の前で止まることなく、通り過ぎていった。 ホッと息を吐き、肩の力を抜く。 「大翔、大丈夫か?」 真っ暗な中でも、大翔の表情はしっかり読み取れた。 「・・・・・・永久、目が光ってて恐いんだけど」 言葉ではそう言いつつも、前ほど怯えはないようだ。 その証拠に、大翔の声は震えていなかった。 「闇の中では仕方ねぇよ・・・・・・ごめんな?恐かったら目ぇ閉じてて」 くしゃっと大翔の髪を撫でる。 「しっ、しょうがねぇなぁ」 ぽふっと大翔が永久に身体を預け、永久はクスッと笑った。 「大翔・・・・・・俺のこと解るのか?」 永久が吸血鬼だということが・・・・・・ 「は?永久だろ?」 何を今更っと訝しげな表情で永久を見上げる。 「いや、そうじゃなくって・・・・・・」 「お前が俺の味方だってことは解ってる」 大翔は永久の言葉を遮った。 「だから・・・・・・永久が何者でも、この際構わねぇや」 大翔の腕が永久の背中に回った。 「そっか」 ぽんぽっと大翔の背中を軽く叩き、そのまま大翔を奥へと誘う。 大翔の背中を壁に付け、ずるずると座り込んだ。 暫くはこのまま、様子を見る事にしようか・・・・・・ だが、いつまでもココにいるわけにも行かない。 彼らはきっと、片っ端から部屋を開け放ち、2人を探すだろうから。 かと言って、今この部屋を飛び出しても、どうしたらいいか分からなかった。 地下はほとんど利用した事が無かったのだ。 この最下層の何処かから、小舟に乗って脱出できるはずなのだが・・・・・・ (こんな時、瞬がいれば・・・・・・) 狼男の嗅覚で目的地にもスムーズに辿り着けていたかもしれない。 「・・・・・・永久」 少しでも大翔を休ませるために胸を貸していたのだが。 「どうした?」 永久の上着を掴んでいる大翔の手から力が抜けていっている。 「・・・・・・わかん、ねぇ・・・・・・けど・・・・・・」 「大翔?」 離れそうになった大翔の手を掴む。 「・・・・・・急に・・・・・・痺れ・・・・・・て」 呼吸が乱れている。 「おい、ヒロッ?」 くらっと視界が揺れた。 (なんだ?) 急に息苦しくなって、喉を押さえる。 先程までは何でもなかったのと言うのに・・・・・・ ぐにゃりと視界が歪む。 「大翔」 大翔を離すまいと、必死に彼の手を掴んでいたのだが、それも限界に達した。 白い霧が思考を掻き消していく。 ちらっとピンクが視界を横切ったのを最後に、永久の意識は途切れた。 カツンッと靴音が響く。 「お兄ちゃん」 長い栗色の髪を弄りながら、彼は永久に抱き締められている大翔を見下ろした。 黒色がベースのゴシック系ドレスの裾を踏まないように持ち上げて腰を下ろす。 「迎えに来たよ、お兄ちゃん」 意識のない大翔の頬に触れ、彼は嬉しそうに微笑んだ。 そんな彼の背後に水島が姿を現す。 「真琴ちゃん」 この場に彼がいるとは思わなかった水島は少々戸惑いを見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。 「水島ちゃん」 彼もニッコリと笑顔を向ける。 「お兄ちゃんGETだよ!」 永久の腕の中から大翔を引き剥がして、ぎゅっと抱き締める。 「そうだね、良かったね、真琴ちゃん」 水島が真琴の髪に触れた。 「うん」 大翔を抱き締めたまま立ち上がり、水島が広げた両腕の中に飛び込む。 水島の背後に先程の男達がズラリと並んだ。 「さぁ、早く帰って儀式の準備をしよう」 男達は円を描くように移動し、両手を中央に向けて翳した。 「帰ろ」 彼は水島の腕の中で嬉しそうに笑う。 「水島ちゃん、大好きよ」 男達が唱える呪文によって出現した魔方陣の中央に、彼を誘っていく。 「僕も真琴ちゃんのこと好きだよ」 魔方陣から光が溢れ始めた。 「どれくらい真琴のこと好き?」 きょとんと大きな瞳に映された自分を見て、水島は苦笑する。 「この世界よりも、この宇宙よりも、もっともっと、それじゃぁ足りないくらい大好きだよ」 ちゅっと彼の頬にキスをする。 「真琴も好きよ」 彼は水島の唇にキスをした。 (大翔くんよりも好き?) そう聞き返したかったけれど、それは止めた。 今はまだ、聞いてはいけない気がした。 「ありがと、真琴ちゃん」 2人を光が覆い隠す。 男達の呪文を唱える声が一層大きくなった。 光はそれに呼応するように膨れ上がり、強烈な光と共に弾けた。 キラキラと舞う光の粉。 そこに彼らの姿も、呪文を唱えていた男達の姿もなかった。 ただ、ぐったりと横たわる永久以外、そこには・・・・・・誰も・・・・・・

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