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第28話
真琴が部屋に入ってから1時間・・・・・・
水島は扉の前に立って、彼出てくるのを待っていた。
部屋の中の様子は全然解らない。
「・・・・・・真琴ちゃん」
扉に彫られた刻印を親指の腹で撫でた。
「大翔くんが完全体になったら・・・・・・僕のことはもういらなくなるのかな?」
独り言に答えてくれる者はいない。
水島は、嵐の夜、墓場で目覚めた。
なぜ自分が死んだのかは覚えていない。
「水島ちゃん」
ただ、目の前には真っ白なドレスを身に纏った真琴がいて、優しい笑みと共に差し出してくれた彼女の手に縋った。
真琴の事を知っていたわけではないけれど。
女性ではないと分かっても・・・・・・
真琴が人間ではないと知っても・・・・・・・・
水島は彼を愛した。
真琴の言葉は絶対・・・・・・
真琴に逆らってはいけない・・・・・・
真琴の望みは自分の望み・・・・・・
この思いを愛と呼べるのかは解らないけれど・・・・・・
コツンッと額を扉に当てた。
「・・・・・・真琴ちゃん」
部屋には入るなと言われている。
真琴はまだ出てこない。
彼はいつも言っていた。
(・・・・・・あの男に裏切られたって・・・・・・あの男って誰のことなんだろう?)
ギリッと唇を噛み締める。
(大翔くんを連れ去ったっていう男は、僕も会ったことある男なんだろうか?)
真琴と大翔が双子の兄弟であることは聞いた。
2人が、破滅の魔女と呼ばれた人の孫だと言う事も知った。
あの当時、双子が禁忌とされていた時代・・・・・・生まれて間もない大翔は塔に幽閉された。
破滅のそう魔女が言ったからだ。
弟の真琴ではなく、兄の大翔を・・・・・・大翔はそのまま殺されるはずだった。
破滅の魔女は大翔を恐れていたという。
真琴はずっと大翔を守って来た。
塔の中で大翔がどのように暮らしていたのか、真琴は教えてくれない。
けれど、そんなある日、あの男が現れたのだそうだ。
大翔をこの塔から連れ出そう・・・・・・君の兄を助けよう・・・・・・と。
(魔女の血を引く2人を仲間にしようとした吸血鬼、か)
ガリガリと扉に爪と立てた。
(真琴ちゃんの首筋に牙を立てた男)
水島も何度か顔を埋めた事がある真琴の首筋。
白くて・・・・・・甘い匂いのする首筋・・・・・・
(僕には牙がないから)
「水島ちゃん?」
突然部屋の中から声を掛けられて、ハッと我に返った。
「なっ、なに、真琴ちゃん?」
入って良いのか迷ったが、そっとノブに手を掛けた。
「お兄ちゃんがまた死んだわ」
カチャッと奥から力が加わり、扉が開いた。
隙間から顔を覗かせた真琴と目が合い、無意識に彼の腰を捕まえると、ぐいっと引き寄せた。
真琴の指先が水島の唇に触れる。
「ふふっ・・・・・・さぁ、儀式を始めましょ?」
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