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第34話

少し風が強くなってきた。 彼らは、それぞれが物陰に身を隠して指示を待っている。 「全員揃いました・・・・・・で、城はど、どうっすか?」 荒い呼吸を整えて、部下が駆け寄ってきた。 「動きはない、な・・・・・・大翔の気配も・・・・・・・・・」 銀色の長い髪が風に靡く。 彼らの視線の先には、湖の中央に聳え立つ城がある。 ぐるりと湖を取り囲むように、エンジンを止めた大型バイクが並んでいた。 彼らが来た時点で物陰に隠れている意味がない。 ピタッと話を止めた。 「ボス?」 銀色の髪を押さえながら、彼はじっと対岸を睨んでいる。 「ジャックが気付いた・・・・・・彼と話をしてくる。お前らはココから動くな」 「え?」 どういう意味かと聞き返そうとした瞬間、彼は目の前から姿を消した。 「ボ、ボス?」 慌てる彼の背後で、大型バイクの隣に肩膝をついて待機していた男達が一斉に立ち上がる。 男達の目は皆、赤く光り輝いていた。 「キリ」 1人がハンドルに手を掛ける。 「待機だ。俺達は動くなと、ボスの御命令だ」 名を呼ばれた彼は、先程までの雰囲気を一瞬で消し、威厳を含んだ言葉を発した。 さわさわと風が草木を揺らす。 1回の跳躍で湖を飛び越えた男が降り立つ。 ガシャガシャとシルバーアクセサリーが音を立てる。 「こいつは、お前の知り合い・・・・・・か?」 見覚えのない男の胸倉を掴んでいた男が振り返る。 「いいえ・・・・・・違います」 「そうか」 乱れた銀髪を直しながら、彼は首を左右に振った。 「離せ!!離せよ、ちくしょう!!!」 「うるさい、黙れ!」 騒ぐ男の頭にジャックは銃口を突きつけて黙らせる。 「で、おたくは、どちらの誰さん?」 低く、威圧的に問いかける。 銃口を突き付けられた男は口を閉じたまま、相手を睨みつけている。 「しゃべりたくなぁい?じゃぁ、思い切って死んでみる?おたくらダンピールは死ぬと、だいたいの確立で吸血鬼に生まれ変わるんだよぉ?」 ジャックはニッと白い歯を見せた。 「うちの息子もそうだったからさぁ・・・・・・今しゃべらなくてもぉ」 「ジャック・・・・・・その永久はどうした?」 ちゃっちゃと引き金を引け、と彼の指がジャックの手に掛かる。 「よぉっく寝てるぞぉ」 夢も見ないほど深く、深く・・・・・・ 「大翔の側を離れても大丈夫なのか?」 城の中に大翔の気配はない。 そして、微かに漂っている魔女の気配は、彼も知っている人物のものだ。 「あいつがか?」 ジャックは意味深な笑みを浮かべたまま、引き金を引いた。 「それとも・・・・・・大翔がか?」 ぐったりと男の両手が垂れ下がる。 「どっちもだ」 銀髪の彼は短く息を吐いて、ジャックの手から男を離した。 ぐしゃっと音を立てて男が足元に崩れる。 「あんたも気付いただろ・・・・・・Cross of the blood(血の十字架)は今・・・・・・」 「あぁ、はいはい」 ストップ、とジャックの手が言葉を遮った。 「まずは、こいつの仲間が他にいないか探しといてくれるか?それから・・・・・・」 こつんと男の頭を靴の先で突付く。 「ジャック、俺達でも大翔の居場所は探せる・・・・・・お前達が動かないのであれば俺達が」 2人の足元で男の身体が灰化し始めた。 「そいつぁ心配いらねぇなぁ。馬鹿息子が起きたら、大翔を迎えに行かせる」 既に瞬が先行しているが、その事は黙っておく。 目の前の彼は狼男が嫌いなので。 ジャックはその場に膝を付き、ザクザクと灰を崩し始める。 「その永久はいつ起きる?」 男は苛立ちを見せた。 「記憶が混乱してやがったからなぁ、しばらくは眠らせておきたいんだが?」 親として・・・・・・

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