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第39話
部屋の中のカーテンは全開。
太陽の光が満ちた空間の中央のベッドで、大翔はシーツを頭から被って扉を睨みつけていた。
足音が近づいてくる。
ゆっくりと、ゆっくりと、この部屋へ向かってきている。
大翔はごくっと生唾を飲み込んだ。
足音が扉の前で止まる。
コン、コン・・・・・・
ノックは2回。
「大翔、俺だけど」
永久の声がした。
「入っていいか?」
問われて、大翔はシーツを握っている手に力を加えた。
「・・・・・・永久、だけか?」
他には誰もいないだろうか?
彼は1人だろうか?
「なんだよ?俺だけじゃ足りねぇ?」
優しい語り口調。
「・・・・・・そんなこと、ない・・・・・・けど」
きゅっと下唇を噛んだ。
「じゃぁ入っていいか?」
大翔がOKを出さなければ、彼は入って来ないようだ。
「・・・・・・あぁ」
ガチャッとノブが回る。
「ひ~ろと?」
永久が顔を覗かせると、大翔はベッドから飛び降りた。
そのまま永久の腕を引っ張り寄せ、扉を閉める。
「大翔、お前・・・・・・」
触れていいか迷ったが、そっと大翔の背中に手を添えた。
「・・・・・・変なんだ」
ぼそっと大翔が零す。
「何が?」
大翔が言いたい事は、なんとなくだが分かっていた。
「知らないはずなのに・・・・・・解るんだ」
何をとは聞かない。
「・・・・・・俺には双子の弟がいて、名前が真琴なんだとか・・・・・・永久の親父は医者で、名前が源三なんだとか・・・・・・」
「今はジャックって名乗ってるけどな」
大翔は永久に背中を向けたままだ。
「この屋敷にいるのは、みんな・・・・・・普通の人間じゃ、ない・・・・・・とか」
永久は静かに聞いている。
「・・・・・・俺も・・・・・・人間じゃないんだ、とか」
大翔の声はまだ震えていないから大丈夫だと、永久は彼に気付かれないように短く息を吐いた。
「大翔」
大翔の肩に両手を乗せて、ゆっくり身体を回転させる。
俯いたままの大翔の目元は陰になっているが、その目は赤く輝いてはいなかった。
大翔の顎をくいっと上げて、きょとんと見詰めてきた大翔の唇に指を沿わせる。
「なんっ?」
一瞬で大翔の顔が真っ赤に染まった。
「大翔、あ~ん?」
永久は真顔だ。
「なんで?」
「いいから、あ~ん?」
永久が何をしたいのか解らないけれど、口を開けなければいけないようだ。
「あ、あ~ん」
ただ口を開ければいいのに、声を出してしまって少し恥ずかしくなったが、永久は気にならなかったようだ。
大翔の口の中をじっと見詰める。
「なんなんだよ、永久」
まだ顎に添えられたままだった永久の手を叩いた。
(牙もねぇ・・・・・・か)
払われた手をそのまま大翔の頭部に持っていき、くしゃっと髪を撫でた。
「俺の事はどう思う?」
本当は答えを聞くのが恐かった。
「え?」
見上げた永久は自分の手で目元に陰を作っていた。
永久の目は赤く輝いている。
目が合った瞬間、ドキッと心臓が波打った。
「なぁ・・・・・・どう?」
どう、とは・・・・・・恐いかどうかということだろうか?
不安げに揺れる永久の瞳に、大翔は苦笑した。
「別に」
「・・・・・・別に、何?」
「ふっ・・・・・・別に恐くねぇよ」
大翔の声は震えなかった。
ただ・・・・・・
「なんだよ?」
大翔は永久から顔を背け、クツクツと笑っている。
「大翔」
まだ肩が上下している。
「・・・・・・お前、いつまで笑ってるんだよ」
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