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第41話

妙なリズムの鼻歌をリピートしながら、瞬はジャガイモの皮を剥いていた。 「あ、帰ってきた」 キーキー鳴きながら、窓を突付く使い魔に気付いて窓を開けてやる。 「ちゃんとミズッチに伝えてきたか?」 水島が大切にしている真琴は無事で、ここにいることを・・・・・・ 使い魔はキーキー鳴きながら頭上を飛び回る。 「ん?こっちに来るって?」 予想は出来ていたけれど。 「ミズッチ、僕の事手伝ってくれるかなぁ?」 瞬は現在、この城の周りをぐるっと囲んでいる父親ジャックの知り合いのダンピール達のためにカレーライスを作っている。 本当なら大翔の元に行きたい。 「だいたいさぁ、パパの知り合いなんだからさぁ、パパがカレー作ればいいのになぁ?」 使い魔に向かって愚痴を零す。 「なんでぇ~僕がぁ~、じゃじゃん、だ~んぴぃ~るなんかのためにぃ~」 演歌調にコブシを回す。 「せっせとカレーを作るぅ~」 キーキーと使い魔の合いの手が加わり、瞬の声も更にボリュームが上げられた。 「僕のぉ~愛情ぉが~たぁ~っぷりぃ~入ったぁ、じゃじゃん、かれぇ~らいすぅ!」 作詞作曲、間奏中・・・・・・ 危ないからと包丁はテーブルの上に置いてステップを踏む。 これから、いよいよサビの部分に突入というところで、カタンッと背後で音がした。 振り返ると、そこには大翔がいた。 「・・・・・・・・・お前うるさい」 大翔に呆れた眼差しを向けられ、瞬は大きく開けた口元を手で覆った。 「ど、どうしたの?」 先程すれ違った時には、大きな声で部屋にいるからと宣言された相手が目の前にいる。 「喉が渇いたから・・・・・・何かもらおうと思って、来たんだけど・・・・・・」 きょろっと部屋の中を見回して・・・・・・ 「邪魔したな」 大翔はくるっと身体の向きを変えた。 「えぇ?ちょっと、大翔くん!」 慌てて大翔の腕を掴む。 使い魔もキーキー鳴きながら、大翔の頭上を飛んだ。 「なっ、なんだよ?」 瞬の腕を大きく振り払う。 (えぇ?そんなに嫌がんなくても・・・・・・ん?) 少々ショックを受けたものの、大翔の視線は瞬と合わない。 大翔の視線は少し上に向いている。 訝しげに見詰める大翔の視線の先には・・・・・・ 「これって」 伸びてきた大翔の手が、瞬の頭部でシュンッと垂れていた耳を引っ張った。 「痛いよ、大翔くん」 見た感じよりも強く引っ張られて抗議の声を上げた。 (本物・・・・・・なんだよな) 振り払われないからいいか、と両方の耳を触ってみる。 (ふわふわだ・・・・・・あ、今ぴくってなった) 不思議そうに頭部の耳を触る大翔に嬉しくなった。 「大翔くん、こっちも触ってみる?」 耳と同じく、ふわふわな尻尾を左右に振る。 瞬間、大翔の目がキラキラと輝いた。 「もふもふ」 ごくっと大翔が喉を鳴らした。 (触りたいんだね?) ほらほら、触っていいんだよぉと尻尾を振る。 「大翔くん?」 触りたくてうずうずしているのに・・・・・・ 「何遠慮してんの?触りたいんでしょ?」 ほらほらっ・・・・・・ 調子に乗った瞬の表情を読み取った大翔の目が据わる。 大翔の手が徐に瞬の尻尾を掴んだ。 「へ?」 一気に力が加わり、引っ張られる。 「ぎゃんっ!ちょっ、ちょっとぉ!」 「永久は?」 抗議の声を上げた瞬を流し、廊下を覗き込む。 「パパんとこ・・・・・・ねぇ、大翔くん」 大翔に尻尾を掴まれたまま、廊下を覗き込む大翔の背中に体重を乗せる。 「重い」 「大翔くんが兄ちゃんに使った呪文って何?」 今にも潰れそうな大翔の肩をぎゅっと抱き締めた。 「呪文?」 瞬の腕の中から逃れ、別名『弁慶の泣き所』と呼ばれる場所に蹴りを入れる。 「痛ったい!あ、あのね、マコちゃんちから逃げ出す時に持ち出したまじゅちゅしょ・・・・・・魔術書をパラパラッて」 眠ったままの永久の側に大翔を連れて行くと、それまで瞬の腕の中ですやすやと眠っていた大翔の目がぱっちり開いた。 そのまま、迷うことなく永久に視線が動き、抱いていた魔術書を捲った。 どこに何が書いてあるのか解っているかのように。 瞬の腕から離れ、永久の耳元で呪文を唱える。 その言葉は、瞬の知らない言葉だったという。 その後、大翔は満足したかのように笑みを浮かべ、永久の隣に横たわった。 そんな2人を見守っていた瞬、ジャック、真琴の目の前で、永久の腕が無意識に大翔を抱き寄せたという。 「大翔くん、顔赤いよ?」 熱でもあるんじゃないか、と瞬の手が大翔の額に伸びる。 「なんでもねぇよ」 その手は叩き落された。 「痛いってば、もう!」 言ううほど痛くはないけれど、大袈裟に叩かれた手の甲を擦る。 そして、凝りもせず、大翔に飛びついて、ぎゅうぅっと抱き締めた。 「お、おいっ、瞬?!」 瞬の腕はがっちりと絡みついていて外せない。 (本気で嫌がられてないも~ん) ふふんっと鼻歌を再開する。 (大翔くんが本気出したら、僕の腕なんか簡単に外せちゃうんだからぁ~) 思った事は声には出さない。 ぐりぐりっと自分の頬を大翔の頬に擦り付ける。 「何甘えてんだよ、お前は」 瞬の腕を外す事は諦めたようだ。 というより、疲れたようだ。 「だって、久々な大翔くんの感触ぅをじっくり味わっておこうと思って」 永久が来る前に。 たっぷり堪能しておこうと・・・・・・ 「瞬、てめぇ何してる?」 思っていたのだけれど・・・・・・ 「永久」 瞬は背を向けているから、まだ兄の姿は見ていないけれど、恐ろしいオーラが背後から近づいてきたのは分かった。 けれど、今更大翔を離せない。 「永久、お前なんか疲れてないか?」 ぐるりと身体の向きを変えたものの、大翔も大人しく瞬の腕の中に納まったままでいる。 「あぁ、疲れてるから癒せ」 こっち来いと永久が大翔の腕を掴んで引っ張り寄せた。 ここで抵抗を見せてはいけない。 直感でそう察した瞬は、素直に大翔を手放す。 「ってか部屋にいろって言ったろ?」 なんで出てきてんだ、と大翔を引っ張っていく。 「あ、そうだ、俺喉が渇いたんだった」 2人の眼中にはもうないらしい瞬は、むぅっと唇を尖らせて2人の背中を見送った。 「後で俺の特製ジュース持ってってやっから、部屋から出んなって」 角を曲がり、2人の姿が見えなくなる。 (大翔くん、だいぶ僕に慣れてきたのに・・・・・・兄ちゃんに攫われたぁ) ちょっと残念。 だが、いつまでも未練たらしく床と友達になっている場合ではなかった。 「瞬、カレー出来たかぁ?」 遠くからジャックの声が瞬を呼んだ。 「まだぁ」 やる気のない返事をする。 「隠し味をねぇ」 にやりと何かを思いつき、瞬は再び包丁を握った。

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