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第43話
パチッと目を開けた。
「・・・・・・あれ?」
爽やかな目覚めとまではいかないが、頭の中はすっきりとしていた。
(なんか夢を見てたような気がするんだけど)
夢の内容が思い出せない。
(・・・・・・すっげぇ大事な事だったと思うんだけど)
ガシガシと髪を掻き乱しながら、大翔はベッドの上で身体を起こした。
「・・・・・・ここ、永久の部屋?」
喉が渇いたと覗き込んだキッチンで瞬と会話をした後連れて来られた部屋。
しかし、ここに部屋の主がいない。
「そう言えば、特製ジュース作ってやるって言ってなかったっけ?」
ぐっと腕に力を入れた瞬間、自分が何かを握っている事に気付いた。
不思議に思って手を開いてみる。
「石?」
白い、小さな丸い石が転がって・・・・・・
「あ」
突然真っ二つに割れた。
力を加えたわけでもないのに、いや、自分が握った程度の力では割れるはずもない石が、目の前で突然割れたのだ。
「なんで?」
この白い石は、永久が湖の底で拾って大翔にくれたものだった。
何となく焦って側面を合わせてみるが、くっつくはずもなく・・・・・・
「どうした?」
急に現れた永久からソレを背後に隠した。
「なんだよ?何隠したんだ?」
ついっと永久の片眉が吊り上る。
「べ、別に何も」
疚しい事は何もないのだから、隠す必要も無かったけれど。
「うっ」
じぃっと永久に見詰められ、大翔はふいっと顔を背けた。
「ったく・・・・・・んなことより今さぁ」
話題が変わることにホッと息を吐いたのだが・・・・・・
「大翔くん?」
ひょこっと永久の背後から顔を覗かせた人物に固まった。
「大翔、お前久遠のことは解るか?」
永久に聞かれて大翔はぎこちなく頷いた。
久遠・・・・・・
この屋敷に住んでいる仲間で、永久の・・・・・・友人。
「こいつな、大翔の代わりにテレビに出てたんだぜ?」
今まで大翔の代わりに、大翔に化けて子供向けの特撮番組に出演し続けていた、らしい。
本編、映画版、雑誌の取材等々、全ての収録を終え、久しぶりに帰って来たのだと言う。
(えっと・・・・・・だから俺に何を言えって?)
礼を言えと?
「記憶はどれくらい・・・・・・」
コツッと音を立てて久遠が1歩近づいた。
「え?」
ビクッと肩が飛び上がる。
そんな大翔を抱き締めようとするかのように久遠が両手を広げて近づいてきた。
「なんっ?」
その腕に掴まらないように身体を反らした瞬間、手の平にチクッと痛みが走った。
(痛っ)
さっきの石の端で手の平を切ったようだ。
「血の匂い?」
すぐに永久と久遠が反応した。
2人の視線はしっかり大翔に向けられている。
「大翔?」
永久が久遠を押しのけて近づいた。
「お前」
そのまま永久の腕が大翔の腕を取り、石を握り締めていた手を開かせた。
「何握ってんだよ」
大翔の血に濡れた石を取り上げる。
「痛くねぇ?」
血が滴る手の平に永久が舌を這わせた。
(痛くは・・・・・・いや、痛いっす)
大翔が顔を顰めると、永久は小さく息を吐いた。
「なんでこんなもん握ってたんだよ・・・・・・って、これ」
大翔から取り上げた石が何なのか気付いたようだ。
「ってか、なんで割れてんだ?」
割れた原因は解らないから、大翔も首を左右に振る。
「・・・・・・あのさぁ」
今はそんなことより、ずっとこちらを監視しているかのような久遠が気になっていた。
ちらっと久遠に視線を飛ばしてから、永久の袖を掴む。
「さっきからジッと俺んこと見てるけど、何?」
永久が側にいるから大丈夫だと思う。
いや、久遠に何かされるとは思っていないのだけれど・・・・・・なんだか・・・・・・
(こいつの目が・・・・・・恐ぇ)
ごくっと唾を飲み込んだら、思った以上にその音が大きかった。
「そりゃぁ見るでしょ?」
それが当然でしょと久遠は口にし、苦笑した。
「大翔くん怪我してんだから心配じゃない?」
久遠の手が再び伸びてくる。
大翔はビクッと大きく震え、ぎゅっと目を閉じた。
「大翔くん?」
久遠の手が止まる。
「大翔?お前何怯えてんの?」
永久は不思議そうに大翔を抱き締めた。
(マジで?)
抱き締めた大翔は微かに震えている。
「・・・・・・んかっ、わかん、ねぇけど・・・・・・」
久遠が恐い。
なぜか、その理由は解らない。
解らないけれど、震えが止まらない。
「なんか、僕が原因っぽい?」
久遠が自分を指差して永久に問う。
「大翔、久遠の何が恐ぇの?」
そう聞く永久の腕の中で、永久の胸に顔を埋めたまま、大翔は頷いた。
「大翔?」
永久はただ大翔を抱き締めることしか出来ない。
彼から困惑した視線を向けられた久遠は、嘆息し、肩を竦める。
「とりあえず、僕は一旦部屋から出るよ」
このままでは大翔と話が出来ない。
その直後、部屋の中から久遠の気配が消えた。
永久は部屋の中をぐるっと見回して、自分達以外誰もいないことを確かめ、そっと大翔を離した。
「大翔、もう久遠のヤツ部屋から出てったから」
顔を覗き込み、大翔の髪に指を入れた。
「ほれ、深呼吸してみ?」
永久が背中を撫ぜてくれて、大翔はゆっくりと息を吸い込んだ。
「痛っ!」
途端、先程石で傷付いていた手の平がジクジクと痛み出して息を飲んだ。
「あ」
さっきは流れ出た血を舐め取っただけだったが、今度は傷口を塞ぐ目的で永久の舌が手の平を這った。
「もう痛いとこねぇ?」
すぐに痛みは消え、傷痕も綺麗に塞がった。
永久が舐めた自分の手の平をじっと見詰め、大翔は素直に頷く。
「で、大丈夫か?」
痛みのせいで震えは治まったようだ。
「あ、あぁ・・・・・・悪ぃ」
こてんっと永久の胸に額を当て、大きく息を吐いた。
「なんでなのか解んねぇけど、久遠見たら、なんか急に・・・・・・」
恐くなってっと声が小さくなった。
久遠が恐いと感じた瞬間、自分ではどうしようもなく震えが止まらなくなった。
目を合わせる事も、触れられる事も、何もかもが恐くて・・・・・・
「永久が側にいなかったら俺・・・・・・」
パニックになってたかもしれない。
でも、その原因が解らない。
「・・・・・・なぁ、俺と久遠って仲悪ぃの?」
親しかった覚えはない。
けれど、それほど仲が悪かった覚えもない。
いや、全ての記憶が戻ったわけではないから、はっきりとは言い切れない。
「今の自分が、どれくらい・・・・・・永久の知ってる俺に戻ってるのかも解らない」
永久は優しく大翔を抱き締めたまま。
「じゃぁ、俺の事はどれくらい解る?」
永久と大翔の関係。
「へ?」
なぜかボッと大翔の顔が一瞬で真っ赤に染まった。
「なななっ、なっ、何が?」
声も変に裏返った。
「何がって?」
永久はニヤニヤ笑みを浮かべ、大翔の顔を覗き込んだ。
「聞きてぇなぁ」
ちゅっと頬にキスを落とす。
「うっさい!知らん!知らねぇよ!お前離れろ!」
ぐいぐいと肘で永久の胸を押し、彼の腕を外した。
「照れんなよ、俺聞きたいなぁ」
大翔の髪をぐしゃぐしゃに掻き回して、それでも執拗に抱き締めようとはせず、永久は大翔から少しだけ離れた。
(さて、久遠の何が原因なのか・・・・・・)
とりあえず、暫くは久遠を大翔に近づかせないことは決定だ。
(久遠限定立入り禁止テープでも瞬に作らせて、この部屋の周り囲もう)
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