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第44話

「あ、久遠さん、何してんの?」 永久の部屋の前で中の様子を伺っていた久遠の背中に声を掛けたのは、白衣に身を包んだ水島だった。 「え?水島?」 どうしてココに? 腰を曲げて永久の部屋の扉に手をついたまま、久遠が頬を引き攣らせた。 (変なとこ見られちゃったなぁ) 水島はきょとんと不思議そうに見詰めてくる。 「なに?」 更に興味を示して、久遠に倣って水島も扉に手を当てた。 「中に誰かいるの?」 扉の向こう側に誰かがいるのは感じ取れる。 ただ、それが永久と大翔だということまでは分からなかった。 「まぁまぁ、それより水島は、どうしてココに?」 中の2人に気付かれる前にココを離れよう。 久遠は水島の手首を掴んだ。 「僕?僕は真琴ちゃんが呼んでくれたから」 ヘラッと水島が笑う。 (ほんと、水島は真琴ちゃんに骨抜きにされちゃったねぇ) 久遠は小さく息を吐いて水島を引っ張っていく。 「あ、久遠ちゃんっと・・・・・・ミズッチ?」 キッチンの前を通り過ぎようとした時、中から声を掛けられて2人は立ち止まった。 「瞬・・・・・・大翔くんどうなってんの?」 はぁっと溜息をつき、久遠は水島の手を離した。 「ん?」 何が?と菓子を久遠の口に入れ、首を傾げる。 「大翔くんが僕を見て超怯えるんだよ」 何ででしょう、久遠はもぐもぐと口を動かす。 「久遠ちゃん、大翔くんに何かしたんじゃないの?」 瞬の視線が突き刺さる。 「久遠さん、大翔くんに何したの?」 水島まで久遠に訝しげな視線を向けた。 「別にまだ何もしてないよぉ・・・・・・大翔くん可愛いから永久くんなんて止めて僕に乗り換えさせようかなぁなんて計画は立てた事あったけど、未遂だもん」 「え?久遠ちゃん?」 何だか、今さらっととんでもない事を言ったような気が・・・・・・ 「だめだよ、久遠さん。大翔くんは真琴ちゃんが認めた人でなくちゃ」 もぉっと水島は頬を膨らませる。 「いや、そうじゃなくってね、ミズッチ」 指摘するところはソコじゃない。 「永久くんのどこがいいんだろぉねぇ?」 久遠はぐったり椅子に腰掛け、テーブルにぐてんっと顎を乗せた。 「弟の前で兄貴の悪口はどうかと思うんですけどぉ?」 瞬と水島は顔を見合わせた。 「・・・・・・あの人もさぁ」 ぼそっと呟いて、久遠がガバッと身体を起こした。 その行動でギョッと仰け反った2人に視線を飛ばし、久遠は眉間に皺を刻み込んだ。 久遠はそのまま固まっている。 「久遠ちゃん?」 瞬がつんっと突付いた頬も固まったまま・・・・・・ 「・・・・・・まさか?・・・・・・・・・・瞬!」 擬音でギギギッと音を立てているように首が動く。 「大翔くんが僕に怯える理由、分かっちゃったかもしれない。瞬、永久くんに言っておいて。僕ちょっと実家に行ってくるって」 そのまま久遠は部屋を出て行った。 引き止める間もなく・・・・・・ 「え?久遠ちゃぁん?」 瞬は首を捻り、廊下を覗き込んで久遠の背中を見送った。

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