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第48話

パタンッ・・・・・・ (出てろって・・・・・・) 部屋から追い出された瞬は、べったり扉に張り付いた。 (大翔くん、なんか・・・・・・ちょっと髪伸びてた?) くんくんっと鼻を鳴らす。 大翔の血の匂いと、真琴の血、そしてもう1つ嗅ぎ慣れた匂い・・・・・・ (あれ?そういえば、兄ちゃんは?) 部屋の中に兄の姿がなかったと漸く気付いた瞬は首を捻った。 (何処行ったんだろ?) ぽりぽりと頬を掻き、兄の行動を思い浮かべる。 ここは、兄の部屋の前。 扉にぴたっと耳を当ててみたが、狼男の能力を持ってしても部屋の中の音が聞こえない。 兄の気配も感じない。 (兄ちゃん、大翔くん1人ぽっちにして何してんだろ?) 唇を尖らせ、扉に背中を当てて胡坐を掻く。 (兄ちゃんがいないんだったら俺が大翔くんを護らなきゃ) ふぅっと息を吐いた。 (まったく、出来の悪い兄貴を持つと弟は苦労するぜ) 両肩を竦める。 (久遠ちゃんはいきなり実家に帰っちゃうし) 腕組をして、ふんっと息を吐く。 (パパは楽しそうにダンピールの友達としゃべってるし) ぐぅっと腹の虫が鳴いて、ごんっと扉に後頭部を当てた。 「瞬、まだソコにいるか?」 気配も消さず、自分はここにいると主張していたから今の音で気付いたというわけじゃないだろう。 「うん、いるよぉ?」 側にいるから安心してね、という意味を込めて返事をした。 「魔術書持ってきてくれ」 (魔術・・・・・・書?) どんなのかと思い浮かべる。 真琴の屋敷から大翔を奪還した時、一緒に持ち出した1冊の魔術書が浮かんだ。 (あれ、どこやったっけ?) がしがしと髪を掻き乱しながら立ち上がる。 「分かったぁ・・・・・・」 しかし、この場を素直に離れる事も出来ない。 「瞬?」 中々離れて行かない瞬の気配に、中から大翔が顔を覗かせた。 (またさっきと雰囲気が違う・・・・・・気がする) 大翔の髪が確実に伸びている。 鬱陶しそうに前髪を掻揚げ、現れた大きなアーモンドアイに映る瞬の姿。 「なんだよ、まだいんのか?どうした?」 瞬は笑みを浮かべた大翔の頬に思わず触れた。 「大翔くん・・・・・・なんか・・・・・・」 なんか・・・・・・ 瞬にジッと見詰められ、大翔は首を傾げた。 「なんか、エロ・・・・・・」 グキッ! 突然伸びてきた大翔の手が瞬の顎を掴んで持ち上げた。 「痛い痛い痛い痛いっ!痛いってばっ!」 顎を掴んだ大翔の手を外し、涙目になった瞬が抗議の声を上げる。 「馬鹿言ってねぇで、早く魔道書取って来いよ」 がしがしっと瞬の髪を掻き回し、最後に軽く突き飛ばす。 「でもさぁ、俺がここ離れると大翔くん1人になっちゃわない?」 別に屋敷の中が危険と言うわけではない。 けれど、1度は真琴に拉致られているから・・・・・・ 「大丈夫だ、瞬・・・・・・永久がいる」 心配すんなっと大翔は笑う。 (兄ちゃん何処?) 先程兄は部屋の中にいなかったと確認したばかりだ。 大翔の腰を抱き寄せて、もう一度部屋の中を覗き込んでみるが、やはり兄の姿は見当たらなかった。 「・・・・・・瞬、いつまで抱きついてるつもりだ?」 さっさと魔道書を取りに行け。 大翔の手に外された腕をぐるんと回して、再び大翔の身体を抱き締めた。 「瞬」 溜息混じりに名前を呼ばれるが、瞬は抱き締めたまま大きく息を吸い込んだ。 「大翔くん、いい匂いするぅ」 ごそごそと、無意識に大翔の服を捲し上げながら、くんくんと鼻を鳴らす。 「俺お前に喰われる気ねぇぞ?」 大翔の首筋に顔を埋めた瞬の耳元で囁く。 「食べないよ・・・・・・甘えてるだけぇ」 ぺろっと大翔の首筋を舐めてみた。 「後で目一杯甘えさせてやっから、先に魔道書・・・・・・」 「ほんと?」 大翔が言い終わらないうちに、瞬が目をキラキラさせながら顔を上げた。 ガシッと掴まれた瞬の手には異様に力が入っている。 (何この期待された感じ) 大翔はこくんっと頷いた。 「パッと行ってパッと帰ってくるね!」 キラキラ眼差しの瞬は、大翔を部屋に押し戻して扉を閉めた。 「俺以外が来たら扉開けちゃダメだからねぇ!」 バタバタと足音を立てながら、瞬が遠ざかっていく。 (・・・・・・元気だな、あいつ)

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