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第51話
いろんなことがあぁなって、こうなって、なんだかんだと一悶着あったが、それらが全て取り敢えず落ち着いた頃。
事件は起こった。
少しずつ記憶が回復してきた大翔と過ごしていたボロアパートを引き払い・・・・・・
バイトは続けたいと言う大翔と一旦別れ、大荷物を担いで先に城へ帰って来た永久を待ち受けていたのが・・・・・・
「ただい・・・・・・・・・ま?」
玄関の扉を開けると、そこには瞬が三つ指を付いて床に座っていて。
「おかえりなさいませ、永久お兄様」
さぁさぁ御荷物をお持ちいたしましょう、と両手を差し出した弟を永久が冷ややかに見下ろした。
「お前、何かしでかしたのか?」
盛大な溜息と共に、ガックリと肩を落とす。
「しでかした?だなんて人聞きの悪い事言わないでよ!」
ぷうっと頬を膨らませる表情は、普段見れば可愛らしいと思えるけれど、今はとてもそんな気分にはなれない。
この笑顔・・・・・・嫌な予感がする。
とても・・・・・・
ものすごく・・・・・・
それはもう嫌な、とてつもなく嫌な予感が、永久の頭の中を駆け回った。
「で?」
極めて冷静を装いながら、差し出された両手に担いできた荷物をドサッと落とした。
「大翔くん達が帰って来るってのが嬉しくなって、ちょこぉっとハメを外しちゃって、って言うかマコちゃんとプロレスごっこをしてて、ちょこぉっと場外乱闘になって、クッションとかぁ、新聞丸めたやつとかぁ振り回しててぇ」
永久は昔レンタルしたことのあるDVDの、何年か前のプロレスの試合を思い浮かべる。
パイプ椅子やら、木刀やら・・・・・・
歓声や悲鳴が上がって・・・・・・
雄叫びを上げて・・・・・・リングから客席に向かってダイブして・・・・・・?
いや、その前に、一番突っ込まなければならないのが、瞬とプロレスをしていたのが真琴だと言うことだ。
「うおぉぉって、大翔くんのお部屋になだれ込んで」
ぴくりと永久の右眉が吊り上る。
あの部屋には、骨董品の数々、年月を掛けて大翔が集めた絵画や壺、等々が置いてあったよね?
「僕の可愛らしい右足がぁ、っていうか、小指のここら辺がぁ・・・・・・コツンって当たってぇ、ガシャンってなってぇ、バキィみたいなことになってぇ、プシュゥゥゥ」
(みたいな?ぷしゅぅ?)
それは一体何に当たった?
絵画に大穴を空けたか?
壺を粉々に割ったか?
それとも?
「何をぶっ壊した?」
「この間パパに買ってもらってたノートパソコン」
大翔を甘やかしたい永久の父、ジャックにパソコンを要求。
それはそれは可愛らしく・・・・・・
瞳をキラキラ輝かせて、上目遣いにジャックを見上げて・・・・・・
両手を合わせて、少し顔を傾けて一言。
「か・っ・て!」
滅多におねだりなどしない大翔の頼みは効果抜群。
コレでもかと言う機能を搭載した最新型のノートパソコンがその日の内に届けられた。
「久遠ちゃんとミズッチが何とか直してくれようと努力はしてくれたんだけど・・・・・・残念ながら・・・・・・」
そう言うと、瞬は近くの棚の戸をスライドさせた。
いろいろな用途の靴が並べられたその上に、もはやパソコンとは呼べない姿の黒い塊がガムテープでグルグル巻きにされている。
「な、中身のデータは?」
「きれいさっぱり・・・・・・って言うか、最初は電源も入らなくって」
水島のあれやこれやの操作で、何とか起動出来たものの中身は真っ白。
すぐにプツンッと電源が落ちてしまった。
その後はコンセントを指しただけで黒い煙が立ち昇り、バチバチと画面から火花が出たらしい。
棚から取り出した塊は、見るも無惨な大翔のノートパソコン。
ガムテープ、ビニールテープ、接着剤、ありとあらゆるもので補強作業をした痕が残されている。
直そうとした努力は認めよう。
だが、砕けた部分の欠片が足りていないのは致命的だ。
「瞬、お前殺されるぞ」
確実に。
狼男って吸血鬼と同じように復活できたかな?
「だから、こぉして兄ちゃんにお願いしてるんじゃん!可愛い弟のために、僕と一緒に大翔くんに謝ってぇ!!」
足にしがみ付いて、そんな涙眼で懇願されても・・・・・・相手が悪すぎる。
いいじゃねぇか、パソコンの一台や二台・・・・・・なんて言って庇ってやれるわけがない。
大翔は怒らせるもんじゃない。
「なんで俺が謝るんだよ!俺関係ねぇし!!お前が素直に謝れば大翔だって・・・・・・」
「謝ったら笑って許してくれると思うの?!あの大翔くんが!!」
普通は謝れば許してくれるんじゃないだろうか?
いや、許してくれない場合もあるが・・・・・・
「だ、だったら・・・・・・そ、そうだ!!こんな時こそ親の出番だろ!!親父や、そうだ一緒に遊んでたっていう真琴に言って!!」
「二人ともコアラ見に行っちゃった!!」
「こあら?」
「オーストラリア!」
見るも無惨な姿になったノートパソコンを抱えて父ジャックの前へ持って行った。
それまでのんびりとテレビを見ていたジャックは変な顔で一瞬硬直、その後慌てて自分の寝室へ駆け込み、バタバタとなにやら慌しく動く音が聞こえてきたかと思ったら、大荷物を両手に抱えて戻って来た。
兄のノートパソコンを壊してしまったショックで呆然と立ち尽くしていた真琴の手を掴み、「コアラ見物に行く」とだけ言い残して屋敷を出て行ったという。
(あのやろぉ・・・・・・逃げやがった)
だからってこのままと言うわけにもいかない。
幸い大翔はまだ帰ってきていない。
「しょ、証拠隠滅しろ!」
「へ?」
兄が口にした言葉に弟はポカンと口を開いたまま動きが止まった。
「だから!証拠隠滅だ!俺と大翔のパソコンは同機種だし、あいつが何のソフト入れてたのかも分かってる・・・・・・俺のパソコンが壊れたってことにして、俺のを大翔のってことにするんだ!」
同じ時に購入した同機種のノートパソコンだ。
きっと大丈夫、バレるわけはない。
よし、パソコンを入れ替えよう!!
「兄ちゃん!ナイスアイデア!!」
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