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第55話
ふと目が覚めた。
「兄ちゃん・・・・・・ねぇ、起きて」
それは真夜中の出来事。
耳元で聞こえる弟の声、続いて身体を揺すられる。
「・・・・・・んだよ?」
永久は寝返りを打った。
「起きてってば、大翔くんがいないんだ」
弟が口にしたキーワード「大翔」の名前でバチッと永久の目が開く。
「大翔がいないって?」
身体を起こすなり、大翔が寝ていたはずの隣を見たが、そこは空。
「トイレだろ」
時刻は零時を回り、もうすぐ一時。
「いなかったもん」
「んじゃぁ、真琴んとこじゃねぇの?」
「マコちゃんのとこにも、ミズッチのとこにもいなかった」
(もう確認済みか)
僕とっても心配、と顔にありありと書かれた弟の頭を、安心させようとぐしゃぐしゃに撫で回して、部屋の明かりを点けた。
「こんな時間に何処行ったんだ?」
大翔が横たわっていたはずの位置に触れてみる。
「まだ遠くには行ってねぇな」
先程まで寝ていただろう温もりが残っている。
そのままベッドに腰掛け・・・・・・
「電話してみたか?」
永久は携帯を開いて大翔の番号を呼び出しながら、首を左右に振る弟の頭を膝の上に乗せた。
コールはするが・・・・・・いくら待っても大翔は出ない。
(あいつ、何やってんだ?)
一度切ってから、もう一度番号を呼び出して・・・・・・今度はすぐに繋がった。
繋がったのだが・・・・・・
サー・・・・・・サー・・・・・・ザザー・・・・・・
雑音が酷い。
「おい、大翔?大翔?」
声は聞こえない。
「大翔、お前今何処にいんの?」
雑音ばかりが聞こえていて、やっぱり大翔の声は聞こえない。
「大翔くん?ねぇ、大翔くんってば、返事してよぉ!!」
永久の手から携帯を奪い取り、瞬は必死になって呼びかける。
「大翔くっ」
すると、雑音が突然消えて・・・・・・
「瞬」
大翔の声が瞬の名を呼んだ。
「大翔くん!!」
途端瞬の表情がぱぁっと明るくなる。
「大翔くん、今何処にいるの?」
「何処って・・・・・・」
(あれ?)
今聞こえた大翔の声は・・・・・・携帯から聞こえたものではなかった。
「ここにいるよ」
そう答えた大翔の声は、すぐ後ろから・・・・・・
いやいや、そんなはずはない。
この部屋の中には永久と自分しかいない、ぐるっと部屋を見回しても、この部屋の中に大翔の姿はない。
従って、声が聞こえるはずがない。
(空耳?)
いや、空耳のはずはない・・・・・・はっきりと大翔の声は聞こえた。
「瞬」
ほら、また背後から大翔の声。
背後から伸びてきた腕が瞬の身体をきゅっと抱き締めて・・・・・・すぐ耳元で大翔の声が聞こえた。
ごくっと飲み込んだ喉が大きく音を鳴らす。
「・・・・・・・・・大翔、く、ん?」
ゆっくりと振り返る。
大翔は部屋にいないのだから、だから、振り返ったら、そこには兄が優しい顔で自分の事を見詰めていて・・・・・・
「瞬、今何時?」
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
断末魔のような叫び声に、永久は飛び起きた。
「ななな、なんだ?!」
叫び声が聞こえた方角に走って行く。
そこは大翔の部屋だった。
「大翔!」
バンッと勢いよく扉を開ければ、大翔に関節技を決められた、狼化した弟が・・・・・・
「し、瞬!!!」
慌ててベッドに駆け寄り、大翔から弟を引き剥がそうとしたのだが、がっちり掴んだ大翔の腕が離れない。
「お前、なんでいっつも大翔のベッドに潜り込んでんだ!!!」
「にっ、にいちゃ・・・・・・にっ!!イタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!」
「少しは学習しろぉ!!!」
漸く大翔から引っぺがすことに成功して、永久はそのまま弟を抱えて部屋を飛び出した。
「・・・・・・はよ」
寝癖のついたままの髪を揺らしながら、大翔がリビングに顔を出す。
「何やってんだ?」
そこには、救急箱を抱えた永久と、ソファに寝転がった涙目の瞬がいた。
「今日の犠牲者だ」
「大翔く~ん」
「どうした?瞬、その怪我は?」
うるうると涙を浮かべて、あちこちに(特に首筋)に絆創膏を貼り付けた瞬が大翔に飛びつく。
(お前・・・・・・それ誰にやられたか分かってんのか?)
「いいから、お前はさっさと朝食済ませちまえよ・・・・・・いつも遅刻ギリギリなんだから」
瞬を大翔から引き剥がして、食卓へ引き摺っていく。
そんな永久のパジャマの上を背後から大翔がグイッと引っ張り・・・・・・きゅっと首が絞まったところでギロッと振り向いた。
「あんだよ?」
「あれ?今日永久はきれいなまんまか・・・・・・あぁ、だから瞬なのか」
「あのなぁ・・・・・・いい加減、その寝起きの悪さ何とかならねぇのかよ」
「そんなこと俺に言われても」
「お前に言わなかったら誰に言うんだよ?」
「真琴とか・・・・・・水島とか?」
二人は既にアカデミーへ向かった。
「とりあえず、大翔もさっさと朝ご飯済ませろよ・・・・・・片付かない」
「待った、永久・・・・・・今朝の新聞は?」
「大翔・・・・・・親父みたいに新聞広げながら食うなよ」
新聞を探す大翔の後ろからずっとくっついて歩き回る永久を見て、瞬が盛大な溜息を吐いた。
「四六時中大翔くんにくっついてなくても大丈夫でしょ」
「ん?俺らってそんなにいつも一緒にいるか?」
(自覚ないんだね、大翔くん)
ぽそっと零した大翔の言葉に永久がその隣で首を捻る。
「そんなことねぇと思うぜ?」
「だよなぁ」
「もう、いいから、二人ともさっさと食べたら?」
「永久、今日、俺の運勢最高だ!」
「大翔くん、僕のはぁ?」
戻ってきた瞬がテーブルの上に身を乗り出して、大翔が広げている新聞を覗き込む。
「瞬、お前もさっさと食べて行かないと!!」
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