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第56話

「お前が声掛けろよ」 「真琴ちゃんとどういう関係なのか聞いてみろよ」 「・・・・・・あいつ、ゾンビだろ?」 ボソボソと外野がうるさい。 瞬とも真琴ともクラスが別れてしまった水島は、休み時間ごとに真琴のクラスまで足を運んでいた。 残念ながら、現在真琴は不在。 何人かの生徒が水島を遠巻きに見ていた。 そんな中の一人が近づいてきて、真琴の席でプラプラと足を所在無げに動かしていた水島に声を掛け、雑誌を差し出した。 「なぁ水島、この中で誰が好み?」 開かれたページには・・・・・・ 水島は雑誌を手にして沈黙する。 「なんだよぉ、お前も男だねぇ?」 ニヤニヤと笑いながら水島の答えを待つ。 その水島の頭の中は混乱していた。 今手にしているのは女性誌。 ファッション雑誌。 その中で笑顔を振りまくその人は、ヒラヒラフリフリのスカートを履き、今時のメイクを施されて、かわいらしく小首を傾げていた。 「・・・・・・これ・・・・・・何?」 「何ってお前・・・・・・」 やだねぇ、とまるでテレビでよく見掛ける中年のおばさんの仕草で彼は口元を覆い隠した。 「姉貴の雑誌なんだけどさぁ、この子、この子」 そう水島の手から雑誌を奪い、彼が指を差したのは。 「新人らしいんだけどさぁ」 その指先で、その頬を赤く染めて・・・・・・ 「この子、真琴ちゃんに似て可愛いと思わね?」 ぐふふっと零れる笑みを押さえきれず。 「プロフィールとか未公開になってるけど・・・・・・?」 「人には一つや二つ秘密があったほうがいいって」 彼は雑誌をぎゅっと胸に抱いて、ぐりんぐりんと頭を振る。 「真琴ちゃんに確認したんだけどさ、本人じゃないって言うんだ!」 恋は盲目とはよく言ったものだ。 「ってことはさぁ、真琴ちゃんみたいに可愛い子が他にもいるって事だろ?」 「そ・・・・・・そうだね・・・・・・」 水島は引き攣った笑みを浮かべた。 昼休み・・・・・・ 瞬は自分の席でガックリと肩を落として机に向かい、先程返されたばかりの小テストを睨みつけていた。 「・・・・・・まずい」 きれいに並んだバッテン印。 「いったい、何がどうしたらこうなった?」 今回のテストは簡単だったはず。 なのに、戻ってきた答案用紙には丸が一つもない。 「なんで?」 見直しをすることもなく、プリントの裏に超、超大作のイラストを描いて余裕をかましていた結果がコレだ。 「こんなの、兄ちゃんより大翔くんに見付かったらヤバイ」 当分一緒に寝てくれない。 わなわなと、答案用紙を持つ手が震える。 「兄ちゃんは、しばらく僕の嫌いなもんばっかり作りそう」 大翔と苦手なモノは似ているが、永久は器用に大翔の皿からソレらを抜き取り、瞬の皿へ。 夕食の時間が憂鬱になる。 「あ、そういえば!!」 ふと数日前の出来事を思い出した。 (あのときは確か・・・・・・) 問題はすべて解かれていた。 答えを書くマスも全て正しく埋まっていた。 瞬がしてしまったこと・・・・・・それは、答案用紙に名前を書く事を忘れてしまったこと。 あの後、大翔にはノート一冊分自分の名前を書けと言われ、永久には水島の持ち物全てに大きく油性ペンで名前を書かれ・・・・・・ (久遠ちゃんには、あれから暫く何回も名前を呼ばれたな・・・・・アレはしつこかったなぁ、そして、うるさかったなぁ) 「・・・・・・どうしよう」 大きな溜息と共に、ぐしゃっと小テストを握り潰す。 (隠すって言ってもなぁ) 後で見付かったりしたら厄介だ。 (帰りに焼却炉に入れていこうかなぁ) 焼却炉を開けた時、誰かに見られていて、兄達に報告されても厄介だ。 (うまい具合にバッテンをマルに書き換えられないかなぁ) 先生と同じペンは持っていない。 「やっぱり素直に見せた方が一番被害少ないよなぁ・・・・・・でもでもぉ」 くしゃくしゃになった小テストをカバンに押し込んで、ゴツンと机におでこを乗せる。 「このテストがあったなんて誰も知らないわけだから黙ってれば」 バレないかも? 少しだけ小さな希望が芽生え・・・・・・ 「ダメだ・・・・・・大翔くんの情報網ハンパない」 いや、大翔だけではない。 きっと永久も知っているだろう。 帰ったら、きっと大翔に手を出される。 (きっと、すっごくイイ笑顔で、今日のテスト出してごらんって言われるんだ) そうしたら逆らえない。 大翔の笑顔が・・・・・・天使のような笑顔から悪魔のような笑顔に変わる。 大翔の周りに黒い霧が発生し・・・・・・魔界への扉が開く。 (・・・・・・あぁ、神様・・・・・・帰ってカバンから出したら小テストが100点になっていますように・・・・・・) そんなことは有り得ないけれど・・・・・・ 有り得る筈はないんだけど・・・・・・・

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