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第58話
一方・・・・・・・・・
「いらっしゃいませ」
自動ドアが開くと、奥から店員の声が飛んできた。
水島は女性誌の置いてあるコーナーに向かって迷わずに足を進める。
一緒に入って来たはずのクラスメートは週刊漫画が置いてあるコーナー経由で水島と合流した。
「あった!」
限定版はDVD付。
目的の物を手にしてホクホク顔のクラスメートの隣で、水島も同じものに手を伸ばした。
「撮影時完全密着ぅ!!」
んふんふ、と笑いが止められないらしいクラスメートは、表紙に踊る文字を読み上げる。
「なぁ、水島、うちで一緒に見てくか?」
「あ、いや・・・・・・僕は」
DVDの中身は気になる。
(完全密着って、変身過程とか?)
未だ夢見るクラスメートは、残酷な真実を受け止められるだろうか?
それとも?
(真琴ちゃんと一緒に・・・・・・いや、最初は一人で確認した方がイイかな?)
残念、ではないけれど一緒に鑑賞は出来ないと告げるが、クラスメートも断った水島を気にすることなく、二人はレジへ向かった。
さらに一方・・・・・・
ゾクンッ・・・・・・
究極に近い悪寒が背中をものすごい勢いで駆け上がり、永久は両腕で自分の体を抱き締めた。
(なんだ・・・・・・なんなんだ?急に背中がゾクッとして・・・・・・)
暖かな湯飲みを頬に当てて、ホッと一息。
大翔は少し離れた場所の、革張りのソファに座って、なにかを熱心に読んでいる。
「何読んでんの?」
ひょいっと大翔の手元を覗き込む。
「何コレ?」
「台本」
短い答えが返ってきた。
「なんの?」
「CM・・・・・・」
ふぅん、と三人掛けのソファの真ん中に座っていた大翔の隣に腰を下して、大翔と同じように活字を目で追う。
暫し沈黙して大翔を待つ。
「で?」
「ん?」
数分後、一通り読み終えた大翔が台本を膝の上に置いた。
「ん、じゃない・・・・・・どうしたんだよ?」
「ん~・・・・・・まぁ、大翔にくっついてると安心できっから、ちょっとの間だけ我慢して」
ぎゅうっと抱きついてきた永久の背中に手を回し・・・・・・
(どうして突然甘えだした?)
ぽんぽんと安心させてやるように背中を叩いたのだが、ふと視線の先に。
「永久」
「ん?」
じーっと自分達を観察するかのような目がずらりと並んでいる。
ココは瞬たちが通うアカデミーの近くにある図書館、彼らは時々ココを利用していた。
「離れろ」
「もうちょっとだけ・・・・・・いいじゃん、今更恥ずかしいのかよ?」
「・・・・・・お前、ココがどこだか分かってやってんのか?」
「どこって・・・・・・問題ねぇだろ?」
永久は離れない。
「あ、大翔さん、永久さん離すのを諦めた」
「本当に仲がいいですねぇ、あの二人」
「まぁ、面倒臭くなったんだろうね・・・・・・あぁなったら永久さんに何言っても無駄だし」
「というか、永久くんは何しに来たんでしょうね?」
「恋人同士のスキンシップ、じゃないの?」
公の場で?
そんな日の帰り、人の流れに乗って図書館の出口を抜けた時、永久の携帯が着信を告げた。
「ん?水島からだ」
ディスプレイを大翔に見せてから通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。
「おぅ、どうした?」
そのまま屋敷の方角に向かって二人は歩き出す。
二、三歩進んで・・・・・・飛んで帰ろうかと足元を蹴って・・・・・・・・・
だが、すぐに永久の足が止まった。
「屋敷に入れないってどういうことだ?」
「は?」
今日は全員出掛けて屋敷が空になるから結界を張って来たが、水島は入れるはず。
大翔は腕時計に目を落とした。
この時間なら久遠はともかく、真琴も瞬も屋敷に戻っているはずだが・・・・・・
大翔は永久の隣で携帯を開き、屋敷のナンバーを呼び出した。
「あ、留守電に切り替わった・・・・・・誰もいないのか?」
水島の話では、今屋敷の前で電話をしているらしいのだが、屋敷のあちこちに明かりは点いていて・・・・・・
「明かりがついてるってことは屋敷の中に誰かいるんだろ?」
隙間から見える部屋の中は、窓際に家具が移動されていて、まるでバリケードのようだと。
人が外から侵入してくるのを拒んでいるかのようだと水島は説明する。
(瞬の奴が何かしでかしたのか?)
心当たりといったらそれしか思い浮かばない。
「真琴に連絡は?」
今朝、水島と一緒に通学したのだが、その途中、用を思い出したから二、三日帰らないと言って飛んで行ってしまった。
水島が真琴の携帯に掛けても繋がらず、瞬の携帯に掛けても繋がらず、久遠の携帯に掛けても繋がらす、屋敷の電話も留守電のまま・・・・・・
既に久遠と瞬、二人の携帯は電源が落とされているようで、大翔が掛けても携帯会社のメッセージが流れるだけだった。
(二人は何者かによって監禁されているとか・・・・・・って、ありえねぇか・・・・・・)
久遠と瞬を縛り上げる?
まったくそんな風景は思い浮かばない。
逆に襲ってきた犯人に噛みつき、千切っては投げ、千切っては投げ・・・・・・そして、その後、犯人の姿を見た者は誰もいない・・・・・・と。
「・・・・・・俺だ・・・・・・あぁ、屋敷の様子が知りたいんだ」
隣で誰かに連絡を取る大翔の様子を水島に伝え、とりあえず自分達と合流するように指示をして一旦携帯を閉じた。
同じように携帯を折り畳んだ大翔は、数メートル先にある飲食店に足を向けた。
そのまま二人は店に入り、二人は窓際の席に陣取り、水島の到着を待った。
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