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第61話

少し時間を遡る。 不機嫌を露にした真琴の登場に、教室の中はシンと静まり返った。 それには構わず、窓際である自分の席へ向かう。 あと五分程で授業が始まる時間だ。 席に座り、机の中に手を入れると、見覚えのない手触りを感じて眉を寄せた。 そっとソレを取り出す。 「なにコレ?」 今までの怒りが一瞬にして消える。 詰まれた教科書の一番上に入れられていたのは白い封筒。 宛先も、差出人の名前もない。 クラスにいた全員が、知らないと首を左右に振った。 「昼休みで人の出入り多いし、いちいち気にしてねぇからなぁ」 一応記憶を辿ってくれているらしい男子が真琴の手元から封筒を奪い取った。 太陽の光に翳してみるが、中身は見えない。 「なになに、マコちゃん、開けてみ?」 その一言を聞きつけ、クラス中の男子が真琴の周囲に集まってくる。 「ヤダ」 真琴は封筒を奪い返し、上着のポケットに捻り込んだ。 「なんだよ、いいじゃん」 あちこちからブーイングが上がるが、ちょうど授業開始のチャイムも鳴った。 彼らは渋々自分の席へと向かう。 授業中に封筒の中身を確かめようとは思ったのだが、そんな真琴の行動を監視しているかのようにクラス中から視線を感じ、アカデミーで封を切るのは諦めた。 翌日。 校舎に入ると、ロッカーを開けたまま、その中をジッと睨みつける真琴がいた。 「マコちゃん、どうした?」 クラスメートがひょいっと真琴の肩越しに顔を覗かせると、荷物の上に数枚、白い封筒が乗っていた。 「なんだソレ?」 「何でもないわ」 「決闘状か?」 真琴は可愛らしい見た目とは逆に喧嘩っ早く、敵を作りやすかった。 滅多な事では自分から喧嘩を売るような事はしなかったが、その見た目から喧嘩を吹っかけてくる連中が多かった。 もちろん売られたら買う。 (決闘って・・・・・・・・・・・・) 「それともラブレターとか?」 「あら、だったらイイのにね!!」 グシャッと握りつぶして上着のポケットにねじ込むと、バタンと勢いよくロッカーの戸を閉めて歩き出した。 (中身はラブレターじゃないけど) 差出人の名前は無く、宛先に自分の名前も書かれていない封筒は、何の飾りもない真っ白な封筒でロッカーの中に置かれる。 毎日、朝と放課後に手紙が入れられる。 真琴はそのまま教室へは向かわず、校舎裏に出た。 焼却炉の近くに立っていた用務員がその場を離れ、校舎の中に入るのを確認して、真琴はポケットから便箋を取り出した。 くんっと匂いを嗅いで、そこで初めて内容を確認する。 「・・・・・・・・・・・・嫌い、死ね・・・・・・偽善者?・・・・・・で、女男ね」 便箋をぐしゃぐしゃに丸めて焼却炉の中に投げ込んだ。 便箋はあっという間に炎に飲み込まれ、灰となって燃え尽きる様をじっと見詰めていた。 「一人では何も出来ないのねぇ・・・・・・貴方たち」 周囲には誰もいない。 けれど、真琴は誰かに聞かせるような音量で声を発した。 真琴の声に応える者はなく・・・・・・・・・ 「そろそろ・・・・・・・・堪忍袋の緒が切れちゃいそう」 ふふっと真琴は口角を上げた。

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