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第62話

「・・・・・・・・・・・・ただいまぁ」 真琴の疲れた声がした頃、大翔はちょうど風呂に入っていた。 永久はキッチンから、水島は書斎から、瞬はリビングからそれぞれ真琴にお帰りと返した。 「真琴ぉ?お前宛に郵便届いてたぞぉ!」 「ん」 永久に返事をし、そのまま真琴は何処にも立ち寄らず自室に直行。 机の上には白い封筒が置かれていた。 「・・・・・・ふ~ん」 宛名に真琴と書かれてある以外、差出人の名はない。 封筒は、いつもアカデミーに置かれているものと同じだった。 「・・・・・・っつ・・・・・・」 封を切った途端、左手に痛みが走った。 「何?」 ポタリと血の滴が机の上に垂れ、封筒から滑り落ちた数枚の剃刀の刃を濡らした。 封筒の中には更に便箋が一枚、いつものように切り文字が貼られていた。 ぐしゃりと便箋を握りつぶし鞄に押し込むと、クローゼットからタオルを取り出して左手に巻きつけた。 そのタオルで机の上に落ちた血を拭い、剃刀の刃を机の引き出しの中へ隠す。 あとは左手の手当てだけなのだが・・・・・・・・・ (舐める?舐めてもらう?舐めてもらうなら、お兄ちゃんがいいかなぁ?) 足音を忍ばせて階段を下りて行く。 「血の匂いがする」 振り返ると、大翔が眉間に皺を寄せて立っていた。 その視線が真琴の左手に向けられている。 そのタオルは白く、赤がよく目立つ。 「ちょっと転んじゃったの」 大翔の手が伸びてきてタオルを掴んだ。 そのまま、タオルを取り上げるのを抵抗せずに見ていた。 「何、この手」 大翔の前に傷だらけの左手が翳された。 「どうやってコケたらそんなんになるんだよ?」 大翔の声は明らかに怒っていた。 そのまま真琴の手を取って階段を上がっていく。 「派手に転んだらなるのよ!」 水滴の滴る髪もそのままに大翔がベッド端に腰を下ろし、真琴もその隣に腰掛ける。 「で、本当は?」 「・・・・・・・・・剃刀の刃」 「は?」 大翔の舌がぺろっと真琴の手を流れる血を舐め取る。 幾つかは傷もかすり傷程度で大したことはなかったのだが、二箇所だけまだ血も止まらないほど深く傷ついていた。 「・・・・・・真琴、犯人知ってるのか?」 「ん。そろそろ反撃開始しようかなって思ってる」 だから心配しないで、と真琴は続けた。 「ふ~ん」 大翔の舌は真琴の手の傷を癒していった。 傷痕など一つも残さない。 (・・・・・・・・・・俺の真琴に傷をつけたヤツ、か)

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