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第63話
翌朝。
いつものようにアカデミーへ向かう。
水島と瞬は昨夜真琴が手に負った傷の事を知らない。
剃刀の刃によって傷つけられた手は、大翔の舌で綺麗に消された。
けれど、一応包帯を巻いておく。
出掛けに、水島と瞬の心配そうな目が真琴の左手に集中していた。
二人には少し特殊な呪いを掛けてると言ってある。
破滅の魔女を祖母に持つ真琴の言う特殊な呪い・・・・・・・・・
二人はそれ以上突っ込んで質問してこなかった。
真琴は左手を上着のポケットに入れて包帯を隠した。
ロッカーはそれぞれ別の列にあるため一度側を離れる。
「わっ!」
完全に真琴の姿が見えなくなった直後、真琴が短い叫び声を上げた。
「どうしたの?」
水島が真琴の元へ駆けつける。
異様な匂いが鼻をついた。
尻餅をついた真琴の視線の先に、真琴のロッカーが口を開けていた。
周囲の学生も顔を顰めたまま、ジッとソレを凝視している。
「なんだ・・・・・・これ・・・・・・?」
真っ黒い塊が押し込まれている。
「羽?」
どす黒いモノがドロリとゆっくり垂れていく。
後から駆け寄ってきた瞬はソレにそっと触れてみた。
まだ生暖かい感触と、ドロリと手を濡らしたモノに顔を顰める。
黒い羽にビッシリと覆われたソレを思い切って掴み、一気に引きずり出した。
べチャッと音がして、真琴の足元に何かが転がった。
バラバラと抜け落ちた黒い羽根が宙を舞う。
「うわっ!」
「なんだよ、おい!」
「冗談だろ?!」
思わず手を離してしまった。
ボトリと床に落ち、飛びずさるとガタンと背中が下駄箱にぶつかった。
近くにいた他の学生達も、それぞれが驚き、恐怖に顔を引き攣らせる。
瞬が引きずり出したものの正体は、刃物か何か鋭いものでズタズタにされ、ほとんど原型を留めていない鳥だった。
直視しないように目を逸らすと、真っ青な顔の真琴と目が合った。
「・・・・・・・・・・・・マコちゃん・・・・・・大丈夫?」
手を差し出すが、真琴はその手を取らない。
呆然と瞬を見詰めるだけで、まだ動けないでいるのだ。
瞬は真琴の腕を掴み、立ち上がらせた。
ベキッと音がして、その原因を確かめるために真琴の足元に視線を落とし、眉間に皺を寄せた。
先程真琴の足元に転がったらしい鳥の頭部と思われるものを踏み潰してしまったようだ。
その感触はしっかり伝わっていたようで、真琴はそのまま瞬の胸に顔を押し付けた。
(瞬、それって僕の役じゃない?)
早くこの場を離れようとしたのだが、朝の登校時とあって野次馬が集まるのも早かった。
あっという間に生徒達に囲まれて身動きが取れなくなった。
「こら、お前達、朝っぱらから何を騒いでいる!」
ちょうど騒ぎを聞きつけた教師が数人駆けつけ、事態を把握した彼らによって三人は応接室へ連れて行かれた。
来客用のスリッパに履き変え、瞬は備え付けのキッチンで手を洗った。
洗っても洗っても、死体を掴んだ手の感触は消えない。
「真琴ちゃん、大丈夫?」
「・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・」
真琴の足元に膝をつき、水島は俯いたままの真琴の顔を覗き込む。
瞬は近くのパイプ椅子を引き寄せて腰を下した。
そこへガラリと勢いよく扉が開いて、大翔がズカズカと入って来た。
「え?大翔くん?」
「永久くんもいる」
その後ろには永久が当然のように付き従っている。
大翔はそのまま真琴の前に回り、しゃがみ込んで顔を覗いた。
「大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・ぜんぜん平気」
「だな。よく怒りを抑え込めてるよ・・・・・・よく我慢してる」
顔を上げない真琴の髪を撫でてやる。
「でも、俺はもうムリだから」
真琴が驚いたように顔を上げた。
永久は米神に手を当てて難しい顔をしている。
「俺の真琴への仕打ち・・・・・・奴らに償わせてやる」
いいな、と振り返られて永久は思わず頷いた。
「でも、お兄ちゃん、これは真琴に売られた喧嘩なのよ。だから自分で・・・・・・」
「ん。じゃぁ、競争だな・・・・・・永久」
「え?お兄ちゃん?競争って・・・・・・相手分かってるの?」
大翔は立ち上がり、くしゃりと真琴の髪を掻き混ぜて、応接室に入って来たと同じように永久を伴って颯爽と退室。
「水島ちゃん、あたし達がお兄ちゃん達に勝てると思う?」
「無理でしょ?」
「大翔くん極悪非道な笑みを浮かべてた」
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