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第64話
午後から曇った空は、放課後まで何とか雨も降らずに持ちこたえそうだ。
授業を受ける気分ではなかったが、一応単位を取るために教室へ戻った。
帰りは必ず三人で一緒に帰ろうと約束して。
そんな授業中、真琴の持つ携帯にメールの着信があった。
相手は久遠、件名には・・・・・・・・・
「ご報告?」
本文には・・・・・・・・・
「ジャックが先祖代々の鎧を着込んで『戦じゃぁ!!』って出張ろうとしたのを止めてあげたから?」
真琴はギョッと目を大きく見開いた。
「大変だったんだよ?いったい何処から聞いたのか知らないけど、真琴ちゃんが嫌がらせを受けてるって知って宝刀まで持ち出して」
西洋の鎧を着こみ、刀を振り上げたジャックの写真が添付されている。
「わぉっ」
全ての授業が何事もなく無事に終わり、水島は肩から力を抜いて、真琴を迎えに行くため教室を出た。
きょろっと周囲を見回し、くんっと鼻を鳴らす。
(狼男の瞬ほどじゃないけど、真琴ちゃんの匂いなら分かるもんね)
嗅ぎなれた匂いを感じ、ふっと笑みを浮かべる。
足取りは軽く、思わずスキップしてしまいそうな水島に、通り過ぎた女生徒達がクスッと笑いあった。
くんっと鼻を鳴らして角を曲がると、ガラッと扉が開いて、中から真琴と瞬が出てきた。
「では先生、よろしくお願いします」
口調は丁寧なのに・・・・・・
(真琴ちゃん・・・・・・絶対零度オーラ身に纏ったまま職員室に入ってたの)
真琴の周りにダイヤモンドダストが飛び交っているような幻を見た。
「しっつれいしましたぁ!!」
対称的に元気よく挨拶をして振り返った瞬が水島に気付いた。
「ミズッチ」
「水島ちゃん」
にっこり笑う真琴だが、先程の冷気を浴びてしまった水島は引き攣った笑みを浮かべて。
「職員室に何の用だったの?」
朝の出来事で呼び出されたのだろうか?
「大翔くんと兄ちゃんのことでちょっと・・・・・・・ねぇ、マコちゃん」
「それはお兄ちゃんに言うからいいの・・・・・・そんなことより、水島ちゃん」
二人だけの秘密なのか、と少しだけ瞬に嫉妬する。
(真琴ちゃんの隣は僕の定位置なのに)
ムッと唇を突き出すと、真琴の両手が伸びて来て水島の頬に触れた。
「水島ちゃん、先に裏門で待っててくれる?」
「いいけど・・・・・・なんで裏なの?」
ドキッとした。
たったこれだけのことで水島の機嫌は急上昇
「面倒くさいことになるから」
ニッコリ笑う真琴は、まだ絶対零度の凍気を放っていた。
荷物を取りに行くという二人と一旦別れ、水島は校舎を出る。
今にも雨が降ってきそうだと思った分厚く暗い雲が少し開けてきた。
細いけれど、雲の隙間から明るい陽射しが差し込んでいる。
いつもは使用しない出口に向かった。
「水島ぁ!!」
真琴達と待ち合わせをしたはずの校門を出た所で数人の小人達に取り囲まれた。
「大変なんだ!」
一人が水島の上着を引っ張った。
「大変なんだよ、水島ぁ!!」
「真琴ちゃんと瞬が知らない奴に連れてかれたんだ!!」
「どうしよう!!」
まるで聖徳太子になったような気分だ。
左右、前後から捲くし立てられ、水島は混乱する。
「ちょっと、落ち着いて・・・・・・えーっと?」
一つずつ整理して、話してもらうために、彼ら全員に深呼吸命令を出した。
中の一人が代表して水島に話す。
どうやら彼らは真琴達の誘拐現場を目撃したらしい。
「おかしいなぁ?」
早くなんとかしなきゃ、と急かす彼らとは対称的に、水島は眉間に皺を寄せて低く唸った。
「真琴ちゃんが簡単に連れ去られるわけないし、瞬には『例え飴玉もらっても知らない人について行っちゃダメ』って教えてあるし」
ということは、知っている人だったのだろうか?
あの絶対零度の凍気を身に纏った真琴に声を掛けられる強者がいるのか?
「違うってば!連れ去られたんだよ、無理矢理!!」
「そうだよ!こうやって、無理矢理・・・・・・だったか?」
隣の友達の腕を掴んで、自分の方へ引っ張りながら少年が首を傾げた。
あれ?とお互いが顔を見合わせる。
「とりあえず、大翔くんに連絡入れようか」
携帯を取り出して大翔のナンバーを呼び出す。
コールが始まり・・・・・・三回目で大翔が出た。
「水島?どした?」
「あれ?永久くん?これ大翔くんの・・・・・・え?あぁ、実は・・・・・・かくかくしかじか、でね」
大翔の携帯のはずなのに、声は永久のモノだった。
水島は今自分が学校の裏門にいること、そこで真琴達と待ち合わせていること、けれどそこに真琴が現れない事を説明した。
更に、そこに、真琴と瞬が拉致られる現場を目撃したという小人が来たと付け加える。
「瞬が一緒なんだな?んじゃぁ連絡取ってみるから、お前は一度職員室に行ってみて、そこに二人がいなかったら帰って来い」
「・・・・・・・・・・・・でも」
「大丈夫だ、水島」
突然相手が変わり、大翔の声がそう答えた。
「俺が、真琴には指一本触れさせない」
そう大翔が言うのなら・・・・・・・・・
水島は大翔との通話を切り、指示されたとおり職員室へと向かった。
職員室に真琴の姿は何処にも無かった。
瞬もいない。
教師の誰も真琴達を見ていないと言う。
水島はそのまま学校を後にした。
くんっと鼻を鳴らしても、真琴の匂いが見付からない。
(真琴ちゃん、何処行っちゃったんだろう?)
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