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第65話
水島との通話を終えた大翔は、そのまま瞬のナンバーを呼び出した。
コール、一回目・・・・・・二回目・・・・・・・・・・・・
大翔はゆっくりと携帯を耳から遠ざけた。
そして、肘をぴんと張った時、コールが途絶え・・・・・・
「大翔くん!!大翔くんから電話って初めてだよね!!僕ちゃんと電話に出れたでしょぉ!」
大翔から数メートル離れた相手にまで届くような大声で瞬が出た。
「瞬、お前真琴と一緒にいるか?」
水島から連絡があった事、真琴の電話は電源が落とされているようで連絡が取れない事を手短に伝えた。
「うん、一緒!でもね、今は手が離せなくって・・・・・・終わったら連絡するからって」
普通の人が聞いたら、なんてことはない会話だろう・・・・・・
「で、お前ら今何処にいる?」
瞬の後ろから微かに人の声がする。
「大丈夫だよ、大翔くん!!奴らにはマコちゃんに指一本触れさせな・・・・・・・・・・・・あ!!!」
「は?」
ブツッ・・・・・・ツー・・・・・・ツー・・・・・・
「おい?!瞬?」
既に通話の切れた相手を呼んでも返事はない。
すぐにリダイヤルを押すが・・・・・・
今度は繋がらないどころか、電波の届かないところにいるとのメッセージが流れた。
「何やってるんだ、あいつら?」
「ってか、あいつ狼男なんだから遠吠えして知らせればいいだろ」
なぁ、と永久が同意を求めて来るが、ソレに対しての答えをスルーし、大翔は別の番号を呼び出した。
「あぁ、俺だ・・・・・・5分以内に真琴の居場所を探してくれ」
「あ・・・・・・あぁ、ああぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
瞬の叫び声が工場の中に響き渡った。
ほんの数秒前まで、大翔と繋がっていた携帯は、目の前の男の手によって遥か遠くへと放り投げられ・・・・・・
恐らく再起不能となるであろう、雨水が溜まっていたバケツの中にポチャンと沈んだ。
「てんめぇ!!!!僕の携帯防水機能ついてねぇのにぃ!!兄ちゃんに買ってもらったばっかだったんだぞぉ!」
「うるせぇ!!貴様こそどうやって縄抜けなんかしやがったぁ!!」
鉄骨の柱にまだ括りつけられたままの真琴を指差して男が叫ぶ。
「大翔くんとは愛のパワーで繋がってるんだもん!」
「誰だよ、それはぁ!!!いいから大人しくしろっ!!!」
持っていたナイフを突きつけ、瞬に座るよう指示する。
「瞬、お兄ちゃんから電話だったの?」
「そうなんだよ、マコちゃん!!初着信!!なのにコイツがぁ!!!」
「うるせぇ!!早く元の位置に戻りやがれ!!!」
そう男が怒鳴りながら瞬を蹴ろうとして・・・・・・
「かわいそうに・・・・・・貴方達、もう終わりね」
ぽそっと独り言のように呟いた真琴の言葉に足が止まった。
「何?今何か言ったか?」
別の男がやって来てしゃがみ込み、真琴と目線の高さを合わせた。
「別に」
ニッコリと余裕の笑みを浮かべる真琴に相手は苛立ち、けれど、なぜか真琴に触れようとはせず、男は立ち上がった。
(こいつの眼・・・・・・普通じゃねぇ)
鳥肌が立った事を気付かれないように注意しながら、男はその場から再び離れていく。
瞬を元通り鉄骨の柱に縛り付けた男も離れていき・・・・・・
「お兄ちゃん、何か言ってた?」
男達に聞こえないよう瞬に尋ねた。
「うん、『瞬愛してる』って」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅん、よかったわね」
上機嫌の瞬が、先程また拘束されたはずのロープから器用に腕を抜き、少し離れた場所にいる男達に気付かれないよう、真琴のロープを解き始める。
「で、どうやって脱出しよっか?」
「そうねぇ・・・・・・このまま何もしなかったらお兄ちゃんが来るだろうけど」
「大翔くんの手を煩わせるような事をしちゃいけないよね?」
(もう動いてるだろうけどね)
真琴の正面に男が2人、瞬の前方にも2人、さらに工場の入口付近に3人、外にも何人かいたと思うが。
「この中の7人、なんとか出来る?」
「マコちゃん、僕に期待してる?7人なんて人数、別にどうってことないけど?」
男達の位置を確認して、乾いた唇を舐めた。
「じゃぁ、なんとかして・・・・・・あ、リーダー格の人だけ話が出来る程度にしてね?」
自由になった手を前に持ってきて、縛られていた手首を擦る。
「リーダーってどいつ?」
男達は皆黒っぽい服装で統一されている。
「今入口のところで話してる金髪の人、あの人見たことある」
「わかった」
瞬は徐に立ち上がり、軽い準備運動を始めた。
そんな瞬の行動に気付いた男達が、再び駆け寄ってくるが・・・・・・
「てんめぇ!!大人しく座って?!」
最初の男を一本背負いで投げ飛ばすと、頭に血が昇った男達が一斉に襲い掛かってきた。
「瞬、少しは手加減してあげてよ?」
真琴は瞬の背後で気の毒そうに男達を見詰めた。
「駆けつけた大翔くんに褒めてもらうんだ・・・・・・でね・・・・・・・」
倒れた男達の中央に、無傷の男が立っている。
駆けつけた大翔が心配そうな顔で男の名を呼ぶ・・・・・・『瞬』と。
瞬が微笑みを浮かべて手を差し出すと、安堵した笑みを浮かべた大翔が駆け寄ってきて・・・・・・・・・・・・
「こう、あっつーい抱擁を・・・・・・・・・・・・ぎゅーってさぁ!!」
飛び込んできた男を抱き締めて、その腕に力を込める。
「うぎゃぁぁ!!!はな、離せ!!離せぇぇ!!!!」
「うるさいなぁ、大翔くんのイメージが崩れるだろ?」
その男をぽいっと捨てて、次に襲い掛かってきた男の顎に拳を食らわせ・・・・・・
右から来た男の鳩尾に回し蹴り・・・・・・
「そんでねぇって、マコちゃん聞いてる?」
「はいはい、聞いてるわよ」
「最後に、ぶちゅーっとさぁ、マコちゃんを守ったご褒美を!!!」
「それは絶対にないから!!」
真琴は背後から瞬の後頭部に一撃を軽く食らわせた。
「大切なマコちゃんを守ったんだから、ご褒美だって言ってキスしてくれそうじゃない?」
「あはは、瞬、どうしてこういう状況になったんだっけ?」
男達に工場に連れてこられて、柱に縛り付けられたのは・・・・・・
どうして?
瞬の動きが途端に悪くなり・・・・・・
表情も次第に青ざめていき・・・・・・・・・・・・
「僕、大翔くんに殺される?」
殺される・・・・・・その単語に、敵の動きまでぴたりと止まった。
「マコちゃん・・・・・・僕・・・・・・の、せいで捕まっちゃったんだよなぁ?」
「そうね」
にっこりと返事をする真琴。
「おいおい、なんか知らねぇけど、殺されるっちゅうのは大袈裟なんじゃぁ」
敵方のリーダーっぽい男は既に戦意喪失、その場に腰を下していた。
「今日は裏門から帰ろうって言ってたのに・・・・・・思いっきり方向を間違えてマコちゃん引っ張って・・・・・・正門から・・・・・・」
「狼男のくせにね」
どうやら瞬の耳に男の声は届いていない。
「声掛けてきたヤツの顔、いきなり僕達の進路塞いだもんだから思いっきりぶっ飛ばして・・・・・・そしたら、怖いバイクのお兄さん方に囲まれて・・・・・・・」
瞬にとって、真琴を連れていても振り切れない人数ではなかった。
けれど・・・・・・
「あいつが、限定特別号の『FuFu』を持っててぇ!!!!」
びしぃっと入口付近にいた男を指差して女性誌の名前を叫ぶ。
突然大声で自分を指名された男は、ビクッと肩を震わせて、丸めて持っていた雑誌を慌てて腹の中へと・・・・・・
「あぁぁ!!!てめぇ!!そんな汚いとこに入れんな、馬鹿ぁ!!」
「瞬、うるさい」
自分の両耳を塞いで、真琴がしかめっ面をする。
「だって、マコちゃん・・・・・・あそこにはっ!!!」
「毎日のように見てるでしょ?」
「足りない」
(そんなことを真顔で即答されても)
雑誌を指差してギャーギャー騒いでいた瞬を、背後から木刀を持った男が一撃を食らわせて・・・・・・
彼を人質に、真琴を工場へと連れ込んだ。
そんな彼らの目的は・・・・・・
「なぁ、あんた」
よっこいしょ、とリーダーらしき男が腰を上げた。
「俺らケンカしてぇわけじゃねぇんだ」
「柱に僕らのこと縛り付けておいて今更?」
「それはすまねぇ・・・・・・ただ、俺らは・・・・・・その、ある人に頼まれて・・・・・・」
「ある人?」
真琴と瞬が顔を見合わせる。
「誰?」
「それは言えない」
その男が即答すると・・・・・・
「そう、瞬」
真琴はニッコリ笑って狼男を呼び寄せ・・・・・・
「腕、一本くらいは平気でしょ?」
「はいはい」
指の関節を鳴らしながら、瞬が男に近づいていく。
「な、なんだよ?」
「悪いな、あんたが素直に言わないから、マコちゃん御立腹なんだよ」
身の危険を察して逃げようとした男を捕まえて、腕の逆の方向へ捻り上げる。
「違うだろっ!お前が馬鹿だからっていてててててっ!!!分かった、言う!!言うからぁ!!!!」
「いいのよ、無理して話さなくっても。言いたくないんでしょ?」
真琴が男の前に回りこんで、再び笑顔のままそう答えた。
「いいえ、言いたいんですぅ!!言わせてくださいぃぃぃ!!!!」
男は泣きながら訴える。
「そう、そんなに言いたいんだったら、しょうがないから聞いてあげるわ」
真琴の視線を受けて、瞬の力が少しだけ緩められる。
「あ、ありがとうございますぅ・・・・・・あの・・・・・・あの人と言うのは・・・・・・・・・・・・」
バゴッ!!!!
突然工場内に響いたのは、扉が外側から壊された音だった。
ズドォォォォン!!!
内側へ倒れた鉄の扉の向こう側に見えるのは・・・・・・
背後から強烈な光に照らされた人影・・・・・・
「あ」
直後、エンジンの爆音が熱風と共に吹き込んできて・・・・・・
壊された扉から何台ものバイクが乗り込んできた。
巻き起こされた砂や埃に咽ながら、先程倒された連中が体を起こす。
自分達が置かれている状況が理解できずに、ざっと見回しただけで何十台という数のバイクに取り囲まれた彼らは、悲鳴を上げて真琴の周りに駆け寄った。
「な・・・・・・な・・・・・・」
瞬に捻り上げられたままの男も、その恐怖のあまり声も出せないようだ。
そうこうしている間にも更にバイクの数が増えていく。
「おいおい、情けねぇなぁ、あんたら」
瞬の周りにも腰を抜かして立てない者、白目を向いて倒れてくる者、頭を抱えて蹲る者が続出・・・・・・
瞬は男を解放して、自分達を取り囲んだ連中を見回した。
乗り込んできたバイクの集団に見覚えはないが、彼らの腕にはそろいの腕章が嵌められている。
ヘッドライトがこちらに集中してはっきりと何が描かれているのかは見えないが・・・・・・
(大翔くん、マコちゃんは僕が絶対守るから!)
「ストップゥ!!!」
突然背後の真琴が大声を上げた。
「へ?」
瞬間、バイクのエンジンが一斉に停止・・・・・・
場内がシンと静まり返った。
「真琴、無事か?」
そして彼らの前に現れたのが・・・・・・
「お兄ちゃん」
「大翔くん!!!」
バキッ!!
飛びつこうとした瞬は、大翔の周りにいた連中によって床へ沈められた。
「お兄ちゃん、流石にやりすぎよ?」
「水島が心配してる。帰るぞ」
気合入れて髪をセットし、特攻服にまで着替えてきたのに、敵と思われる連中は腰抜け共ばかりで・・・・・・
自分に向けられている眼差しは恐怖の色に染まっていて・・・・・・
(これじゃあ弱いもの苛めになっちゃうだろうが!!)
面倒臭そうに大翔は髪を掻き乱して、近くのバイクに跨っている男に指示を出した。
その後、あっと言う間にバイクの集団が工場内から引き上げて行き・・・・・・
最後に大翔をこの工場まで乗せてきた永久の運転するバイクだけが入口で大翔を待っていた。
「お兄ちゃん、今のは?」
「源三パパのお友達」
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