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第67話
外に控えていた源三パパのお友達に、泣き疲れてぐったりと座り込んだ男達を引き渡し、改めて永久と大翔は真琴の後を追跡し始めた。
バイクを運転する永久の後ろで、大翔は携帯を取り出した。
何度もコールはすれども相手は出ない。
永久の腰に回した大翔の腕に力が入る。
ミシッと携帯が悲鳴を上げた時、何度目かのコールが途中で途切れ・・・・・・
「お掛けになった番号は・・・・・・」
抑揚のない女性の声が流れた。
「永久」
「大丈夫だって・・・・・・しっかり掴まってろ、飛ばすぞ?」
腰に回されている大翔の手を、ぽんぽんっと軽く叩き、永久は走るスピードを上げた。
「あぁ~あ」
少し離れた位置に投げ捨てられた携帯を見詰めて、真琴は小さな溜息をついた。
目の前には真琴のクラスの担任の女教師が立っている。
「随分と余裕じゃない、真琴さん・・・・・・こっちには人質がいるのよ?」
パイプ椅子に縛られた水島は怖がると言うより、呆れた表情を見せている。
「だから何度も言ってるでしょう?」
面倒くさそうに真琴は前髪を掻き上げて、女教師と向き合う。
「あれは、ちゃんとした、正々堂々とした勝負だったって」
「あたしに負けたくないからって、魔女の力を使ったに違いないのよ!!じゃなかったら、このあたしが負けるはずないもの!!!」
頭上で駄々っ子のように喚き散らし、振ってくる唾を避けたいのに避けられない水島は眉間に皺を寄せて、さっさとこの状況を何とかして欲しいと真琴の背後にいる瞬に目だけで訴える。
「あのさぁ、アナタ程度の相手をするのに魔女の力を使うわけないでしょ?」
(真琴ちゃん、これ以上毒を吐いちゃダメだよ・・・・・・それじゃあ余計にこの人怒る)
「どうして!このあたしがアンタみたいな小娘に負けるのよぉ!!」
「ねぇ、マコちゃん、この人達はどうしておけばいい?」
二人から少し離れた位置に、瞬が立っている。
彼の足元には、胴着を着た男達が何人も倒れていて・・・・・・
「いらない。瞬の好きにしていいわ・・・・・・で、アナタには、この真琴が弱そうに見えたわけ?」
「ひっ!!」
頭上で女教師が息を飲んだのが分かった。
「アンタの日常を観察したって、あたしより強いなんて証拠どこにもなかったわ!!!」
「あぁ、一時期感じたストーカーみたいな視線って、アナタだったの?」
(真琴ちゃん、ストーカーされてたの・・・・・・誰にも言わなかったじゃん・・・・・・大翔くん達は知ってたのかなぁ)
じりっと真琴が間合いを詰めた。
女教師の手にはカッターナイフが握られている。
「い、いつも偉そうに一番後ろにいて自分は何もしないくせに・・・・・・卑怯な手を使わなきゃあたしに勝てるはずがないのよ!!」
「じゃあ、もう一度ここで試してみる?」
「な、ななな、何?」
「今すぐに、ここで勝負するってなったら、それこそ正々堂々、今すぐになんて何も小細工なんて出来ないでしょ?」
水島が少しでも動けば頬に傷がつく辺りまでカッターの刃が下りている。
「ねぇ、カッター仕舞ってくれない?水島ちゃんの顔に掠り傷一つでもつけたら・・・・・・・・だけじゃ済ませないわよ?」
女教師に近づけない理由は、ただ一つ。
女の握っているカッターが水島に近いのだ。
少しずつ間合いを詰めていた事に女教師はまだ気付いていないが、これ以上は難しい。
(早くしないと)
先程不自然に切れてしまった兄との電話・・・・・・間違いなく二人が駆けつける。
その瞬間、ビクついた女教師の手元が狂い、水島を傷つけてしまうかもしれない。
「こうなった以上、引き下がれないのよ!!あたしは、魔女相手に喧嘩を売ってしまったんだから!!」
「アナタ君程度の喧嘩をこの真琴が買うわけないでしょ?」
(真琴ちゃん・・・・・・だから・・・・・・ね?言葉遣いに気をつけようよ)
「それに、ここには道具も何もない!!ここで勝負なんて無理だ!!!」
女教師が叫ぶ。
「瞬に買いに行かせればいいでしょ」
「あ、アンタはそうやってまた・・・・・・彼はアンタの手下でしょ!!そこで何か細工を!!!」
「しないってば・・・・・・だったら、アナタが一緒についていけばいいでしょ?」
「そ・・・・・・そうか・・・・・・そう・・・・・・・・・」
「でもマコちゃん」
それまで壁にもたれて黙って真琴達のやり取りを見学していた瞬が話に入って来た。
「ここじゃコンビニもスーパーも何の店もないよ」
彼らがいる場所は・・・・・・
「ここには、この廃墟が一つ建っているだけで近くには何もない」
窓から双眼鏡で外を眺めて瞬が言う。
「ついでに言うと・・・・・・電気も・・・・・・引いてない」
倒れていた一人が苦しそうな息遣いの下でそう言葉を残し、意識を手放した。
「真琴ちゃん」
それまで黙っていた水島が、愛しい者の名を呼ぶ。
「真琴ちゃん、どうして『早食い競争』に勝ったくらいで、こんなにこの人の恨みを買うことができるわけ?」
今までずっと疑問に思ってきたことを口にする。
「君は知らないのか?」
少しだけカッターの刃が水島から遠ざかる。
「あの卑怯な食べ方を!!」
カッターの先が天井に向く。
「だって・・・・・・家では普通だよ?」
「そう!普通!!学食や外で食べてる様子は、他の人達と変わらない!普通なのよ・・・・・・なのに、あの時は違った!!!」
大きくカッターの刃が外れる。
「大きく開いた口!!食べ物を口へと運ぶ素早い腕の動き!!一度も詰まらずスムーズに流れていく喉!!底を知らない胃袋!!!」
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