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第69話
「おもしろくない」
気がついた時、大翔は自分の部屋のベッドの上にいた。
あの後、まだスタンガンの衝撃が残っていたことと、寝不足等が重なって大翔は再び眠ってしまった。
そして・・・・・・目覚めたら全てが終わってしまっていた。
床に座ってイチゴを頬張る永久の報告を聞いていた大翔はムッと唇を尖らせた。
(・・・・・・暴れたりない)
大切な双子の弟のために・・・・・・
真琴がされたことを、何倍、何十倍にしてやり返そうと思っていたのに。
「どうしてそんな顔してんだよ、ほれ」
口開け、と一粒のイチゴを口元に運んでやる。
「・・・・・・おもしろくない」
ぱくっとイチゴに食らいつき、大翔がボソッと呟いた。
「まぁなぁ・・・・・・・大食い対決の勝ち負けで真琴ちゃんに嫌がらせしてたって言うんだもんなぁ?それが教師だなんてさぁ」
「・・・・・・おもしろくない」
大翔はベッドの上で膝を抱えた。
「なんだよ?」
「おもしろくない!」
ふん、と布団を被って横たわる。
(俺なんにもしてない・・・・・・俺だけ蚊帳の外みたいじゃんか!)
永久は小さく溜息をついた。
(あれだけ暴れておいて、『おもしろくない』って・・・・・・お前)
全てが寝惚けての行動のため、大翔は自分がしたことを覚えていない。
あの後・・・・・・・・・
なぜか駆けつけた源三、と言うか、ジャックが、その場を丸く収め、あれこれ片付け終わり・・・・・・
女教師は何処かへ連れ去られ・・・・・・・・・
今回の事で傷心の真琴にペンギンを見せてやると言って連れて行こうとして・・・・・・
水島が、僕も一緒に行くと言って飛び出した。
そもそも、水島はゾンビだ。
つまり、不死身、と言うか、死んでいるも同然なのだ。
あの時、あのカッターナイフを突きつけられている時、なぜ大人しく縛られていたのか?
なんとでもなったのではないか、そう聞いてみると・・・・・・・・・
「死なないけど、痛覚はあるみたいなんだ、僕」
ケロッとそう答えた。
永久の知っているゾンビとは性能が違うらしい。
まぁ、そんなことは置いておいて・・・・・・・・・
「大翔」
ぽんぽん、と布団の上から大翔の頭を軽く叩いた。
「機嫌直せよ」
空になったイチゴの器を持って腰を上げる。
大翔は再び眠ってしまったようだ。
物音を立てないように、永久はそっと部屋を出た。
「あ、大翔くんは?」
廊下に出てきた永久に気付いて、瞬が自室から顔を覗かせた。
「また寝ちまった」
疲れてるみたいだし、と付け加える前にぴしゃりと扉が閉められる。
「・・・・・・はははっ」
引き攣った笑みを浮かべて階段を下りていく。
(・・・・・・今回特に強烈だったしなぁ)
毎朝繰り返されることで慣れていたはずの瞬だったが、相当ストレスが溜まっていたらしい大翔の魔王ぶりに極限状態まで追い込まれたらしい。
(あいつ・・・・・・よく死ななかったな)
それから暫くの間、瞬は朝以外も大翔には近づかなかった。
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