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第84話
バタンと勢いよく扉が開いて、永久が源三を控え室に引っ張り込んだ。
ぎょっと目を見開くモデル達と女社長の前に源三を突き出す。
「さぁ話せ!!大翔はどこだ!!」
背後で同じようにバタンと大きな音を立てて扉が閉まる。
「ちょっと、永久くん・・・・・・大翔くんいなくなっちゃったの?」
「あぁ!!源三に気を取られてたせいでな!!だから絶対知ってるはずだよな!!」
(ほら・・・・・・永久の目の色が違うんだよ、大翔のことになると・・・・・・・はぁ)
人事のように感じながら、源三は自分達を取り囲んだモデル達を見回した。
「親父!!」
「はいはい・・・・・・大翔なら無事だから・・・・・・真琴ちゃんと一緒に・・・・・・」
観念してそう応えると、社長が顔を覗き込んできた。
「その真琴は何処にいる!」
(あぁ、そうだ・・・・・・永久以外は『アリス』のこと知ってるんだった・・・・・・それなら・・・・・・)
源三がニッコリと笑みを浮かべた。
「そう、『アリス』って子の・・・・・・」
ぴくりと社長やモデル達が反応した事を源三は見逃さなかった。
「なんでも、『アリス』っていう可愛い子が入ったらしいな?」
その頃、大翔は真琴と一緒にいた。
水島達に連れられてやって来た部屋の扉を開けると、部屋の中のモデル達とキラキラ笑顔を振りまいて写真を撮っている。
コホン、とワザとらしい咳払いをすると、カメラに向かってピースをしていた真琴が漸くこちらを向いた。
「お兄ちゃんっ!お疲れ様ぁ!」
「ん」
ふりふりと衣装を靡かせて、真琴が一回転。
可愛い、可愛いと真琴の、ばっちりセットされた髪は崩さないように、軽くぽんぽんっと頭を撫でてやる。
「お兄ちゃんの『アリス』の影武者、頑張ります!」
そのアリスに扮した真琴を瞬がエスコートする。
本当なら、大翔と瞬が歩くはずだったのだが・・・・・・昨日の騒ぎでいろいろと警備の変更もあり、大幅な予定変更。
エンディングを迎え、モデル一人一人が紹介される時間に永久が会場で警備することになってしまっていた。
と、いう事で、ステージ上のアリスを真琴が、その真琴を瞬がエスコート。
永久の見える範囲に大翔は待機・・・・・・
いや、どうせなら永久を連れて先に帰る、そんな予定。
エンディングに大翔が出ないことを疑問に思うかもしれないし?
大翔の目の前に真琴の顔がドアップに迫り、大翔はビクリと身を引いた。
「なぁ、社長は真琴が『アリス』になるの承知してんの?」
「その社長さんから頼まれたの。こんなことでお兄ちゃんがヘソ曲げてモデルの仕事辞めちゃわないようにって」
「理由はそれだけ?」
立ち話もなんだから、と真琴は近くのパイプ椅子に腰掛け、大翔は応接セットのソファに体を沈めた。
「あと、妙な連中が報告されてるの・・・・・・」
それは大翔の耳元で、他のモデル達に聞こえないように報告しておく。
「昨日の?」
「違うっぽい・・・・・・普通の人間ばっかみたいだから」
「ほっといても大丈夫なんじゃないの?」
「お兄ちゃん、何かあってからでは遅いのよ?」
真琴の指が大翔の頬を突く。
「大丈夫だ。俺には永久がいるから」
「あら、御馳走様」
「真琴が暴れたら大変だろ?後片付けとか、誤魔化したりとかいろいろ・・・・・・昨日のこと、聞いてるぞ?」
すると、真琴が大きく頬を膨らませた。
「お兄ちゃんったら水島ちゃんと同じ事を言うのね!」
(水島にも言われたのか)
(なんなんだよ?)
永久は眉間に皺を刻んだまま、不貞腐れた態度でモニターを睨み付けていた。
あの後、源三の口から『アリス』の名前が出た途端、周囲の態度が変わり、大翔の控え室でアフリカの土産話に花を咲かせている。
永久は一人控え室を出て、警備スタッフがいる制御室へやって来ていた。
どのモニターにも大翔の姿は映っていない。
「永久?何をそんな真剣に見てるの?可愛い子でもいたかい?」
背後からどっかりと体重を掛けてきた同じ警備員に応える事もなく、ただ、どれかのモニターに大翔が映り込む瞬間を待って。
「大翔がいないんです」
「ん?だって、この時間ってさぁ・・・・・・むぐっ」
別の警備員が彼の口を塞いだ、そんな行動にも気付かず。
(どこにも怪しいヤツなんて映ってねぇし)
黒服、サングラスの人間はゴロゴロ映っているのに・・・・・・永久にとっての怪しいヤツはいない。
「なぁ」
「ん?」
「『アリス』って娘の控え室何処?」
画面が切り替わっていくのを眺めていると、映らない場所がある事に気付いた。
長テーブルの上に広げたままの見取り図と照らし合わせて、監視カメラが動作していない箇所は二箇所ある。
(大翔と『アリス』に何の共通点があるんだ?)
尋ねた事に答えが返ってこないと、永久は漸く画面から目を離した。
背後で二人の警備員がこそこそ話していたが、永久と目が合ってニッコリ笑う。
「で・・・・・・あの、『アリス』の控え室・・・・・・いいや、俺自分で探してきます」
「うへぁ?ちょっ、ちょっと待って!!」
図面を持って部屋を飛び出そうとした永久の腕を慌てて掴む。
「なんですか?」
(うわぁ、そんなに睨まないでよぉ)
だが、ここで離すわけにはいかない。
「離してくださいよ・・・・・・俺、行き・・・・・・ま・・・・・・」
自分を掴む先輩の向こう側、昨日今日と開催されているファッションショーのポスターが貼ってある。
(そういえば・・・・・・瞬は大翔に抱きついて・・・・・・)
ぐいん、と先程とは逆方向に引っ張られて彼は床と仲良しになった。
「永久?」
テーブルの上に山積みになった書類をガサガサと漁って、一枚の紙を取り出した。
それはファッションショーのパンフレット。
社長を中心にしてモデル達の集合写真が載っている。
「この中のどれが『アリス』?」
(どれって・・・・・・一目瞭然でしょ?)
社長の右にいるのが、『アリス』で大翔。
(本気で分からないのか?一緒じゃん?うそぉ?)
永久は真剣そのもの。
「あの!」
(こいつ・・・・・・おもしれぇ!!)
ニィっと笑って彼が体を起こす。
「しょうがねぇから、この僕が、彼女の楽屋に案内してあげよう」
「ちょっと、バカッ!」
引き止めようとした声を背中で聞いて、二人は飛び出した。
慌てて廊下を覗いても、既に二人の姿はなく。
「あの馬鹿」
小さく毒づいて、携帯を取り出した。
「すいません、今そっちにうちのお馬鹿が永久くんを連れて行きましたから、うまくやってください」
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