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第85話

先導してくれる警備員の後ろにピタリとついて角を曲がる。 すれ違う人達が何事かと振り返るが、構わず突き進んだ。 かなり全力疾走に近いスピードで次の角を・・・・・・ 「うわっ!」 「わっ!!」 出会い頭にぶつかりかけた相手に、思わず手が伸びて。 「大翔?!」 まだ女装したままの大翔と再会した。 「あ!永久!やっといた!お前、今まで何処に行ってたんだよ!!」 自分が尋ねようとした事を先に言われて、永久はただぽかんと大口を開けたまま相手を見下ろした。 「何処って・・・・・・お前こそ・・・・・・」 「俺はワシントンクラブ」 (わ?) 思い切り何だソレ、という顔をする永久に向かって、その頬を両手で挟んで、もう一度同じ事を言う。 「ワ・シ・ン・ト・ン・ク・ラ・ブ!!」 「つまり・・・・・・WC?」 そう口にした永久の顔を引き寄せて、その耳に囁いた。 「お手洗い!正解!」 チュッと耳にキスをして離れる。 「おまっ?!」 「ほら!もうすぐ警備交代だろ?行くぞ!!」 真っ赤な顔をして耳を押さえる永久を見上げて、大翔はしてやったり顔で腕を引っ張って歩き出した。 その場にポツンと一人を残して。 「おぉい?僕のことはほったらかしかぁ?」 「ダメだよ、邪魔しちゃぁ」 ふぅとワザとらしい溜息が聞こえて振り返ると、タキシードを着た瞬が警備員を見上げていた。 「いらっしゃい」 にっこりと笑って彼を出迎えたのは真琴扮する『アリス』。 その他モデルの皆さんに囲まれて、警備員の表情はでれぇっと緩みっぱなし。 もう彼の頭の中に永久達の事は微塵も残っていなさそうだった。 瞬はホッと息を吐いて、彼の話を聞いている真琴に視線を投げた。 真琴もソレに気付いてウインクをくれる。 しょうがないなぁ、と瞬も彼女達の輪に混ざった。 (あの二人、あのまま帰るんだろうな) 久しぶりに二人っきりで帰り道を歩く。 繋いだ手を気にした素振りも見せず、簡単に女装を解いた大翔が永久を見上げる。 「最後までいたかった?」 「いや、別に・・・・・・大翔と一緒なら・・・・・・俺の警備の仕事は、大翔限定だから」 大翔が帰ると言うのなら、永久も帰る。 「大翔こそ、途中で帰ったりして、後で社長さんに怒られるんじゃねぇの?」 「ん・・・・・・あぁ、平気平気」 大翔が再び携帯と睨めっこを始める。 永久にも曖昧な返事を返し、真剣に画面を見詰めている。 (何見てんだ?) 横から覗き込んでも画面は真っ黒で見えない。 「大翔、誰からかメール?」 「次から次に受信して送信出来ない・・・・・・永久、携帯貸して・・・・・・っつうか交換しろ!」 舌打ちして、今まで操作していた携帯を永久に押し付け、永久の携帯を取り上げる。 「おい!」 永久の手を離れ、大翔の手に納まった携帯を開き、メール機能を立ち上げる。 マナーモードになったままの大翔の携帯は、永久の手の中で振動を続け・・・・・・ 見るわけにもいかないので電源を切った。 「誰にメールすんの?」 メールアドレス分かってるのかと、画面を覗き込んだ。 宛先欄には不規則に並んだ数字と英文字。 (どうやったらこんな複雑なアドレス暗記出来るんだ?) 「さっき大蛇先輩からメールきたんだ・・・・・・返事出さないと・・・・・・」 「ヒロちゃん可愛かった、とハートマーク付きで書いてあったか?」 ゲシッ!! 目線は携帯画面に集中しているものの、大翔の蹴りが見事永久の尻を捕らえた。 「いってぇ!!お前、自分の脚力考えろよ!!」 「あ」 ストンッと大翔の足が止まる。 「・・・・・・・・・・真琴に買い物頼まれてたんだった」 「なぜ今ソレを思い出した?っつうか、何買うんだ?」 荷物持ちしろって言うんだろうな、と思いつつ、ジンジン痛む尻を撫でる。 「最近真琴がハマってるモンがあるんだけど・・・・・・・・・」 じっと大翔の目が座る。 暫し見詰め合う。 そして、ふぅっと大翔は息を吐いた。 「永久は・・・・・・・・・苦手だと思う」 「なにが?」 携帯操作を終了し、永久に返す。 返って来た携帯を上着のポケットに押し込み、歩かせようと大翔の手を取った。 「オカルトグッズ」 「おか?」 「持ち主が呪われるらしい宝石とか、血の涙を流す女の像とか、変な形の壺とか?」 見る見るうちに永久の顔色が無くなって行く。 「なんでそんなモン集めてんだよ?止めてやれよ、お兄ちゃん」 「永久が苦手なモンだから、いっぱい集めるんだってさ」 「は?」 「永久への嫌がらせ」 「お前はソレに手を貸してやるのか?」 (だって、今日俺の代わりに頑張ってもらっちゃったから) とは言えない。 「まぁ、適当に買ってくから先に帰って・・・・・・」 「今日冷蔵庫になんもない・・・・・・・・・帰りはどっかでメシ食って帰るか?」 (オカルトグッズを持って飲食店に入れと?) 結局、買い物に付き合わせるのは可哀想なので、待ち合わせの場所、時間を決めて一旦別れることにした。 真琴に言われていた店はすぐに見付かり、真琴が好きそうな品を何点か選んで、宅配してもらう事にする。 屋敷まで、普通の宅配業者では辿り着けないから、特殊な・・・・・・源三のお知り合いを経由して運んでもらうように手配した。 駅前で待ち合わせて、二人で外食・・・・・・ この前はロシア料理だったから、今日は・・・・・・とあれこれ料理を思い浮かべながら大翔は買い物が終わったと永久に連絡を入れた。 なにやら背後がうるさかったけれど、これから駅前に向かう事は告げたから永久もすぐに来るだろう。 (パスタか?焼肉か?それとも・・・・・・) 全ては永久のおごり。 どうせなら贅沢なものを・・・・・・とメニューを考えながら信号を渡る。 待ち合わせ時間の十分前、駅前に到着した大翔は、周囲にまだ永久の姿がないのを確認して、携帯を取り出した。 永久からの着信はない。 短縮ボタンを押して、耳に当てた。 「永久?俺もう駅前着いたんだけど、今どこ?」 「大翔?あ、見えた。おーい!!」 永久からは大翔を見つけられる位置にいる? キョロキョロと辺りを見回していると、なにやら団体ご一行が近づいてくる。 (団体様御一行?) ぞろぞろと団体が近づいてくる。 皆、大翔の方へ向かってくる・・・・・・その中央に永久がいた。 「待った?」 永久の周りには、知らない顔ぶれが並んでいて大翔を取り囲んだ。 「超待った」 (で?こいつらは何?) これから二人っきりで夕食を食べに行くはず。 「俺達とアカデミーで一緒だった連中。大翔、憶えてない?」 永久の言葉に大翔の片眉が吊り上る。 「知らない」 「しらな・・・・・・・・大翔?」 (あれ?大翔の機嫌が急降下?) 懐かしい顔に会ったから、大翔にも会わせてやろうと思って連れて来たんだが? 大翔と同じクラスだった奴もいるから知っているはずなのだが? 「久しぶりだし、ここで会ったのも何かの縁。うちに泊まりに行きたいって言うんだけど」 「どこに?」 「だから、うちに」 ざっと数えて五人、空いている部屋はある。 大翔はゆっくりメンバーを見回して、小さな溜息を吐き出した。 「お前ら、自分の身は自分で守れるんだろうな?」 「何だよ大袈裟だなぁ」 大翔の言葉を真に受けず、彼らは笑う。 「命の危険を伴う場合もあるが、責任は取らないからな?」 「え?命の危険って?」 ヒクッと一人の笑みが引き攣った。 「貞操の危機を感じることもあるかもしれないが・・・・・・」 「ちょっと待った!大翔、貞操の危機って?」 「大丈夫だよ、永久く、ととと永久のことは僕が守ってあげる」 中でも一番背の低い男が口元に笑みを浮かべて永久の腕に自分の腕を巻きつけた。 「僕のことは、ととと永久が守ってくれればいいから」 大翔に伸びていた永久の腕を自分に引き寄せる。 しつこくくっつこうとする男から永久は逃れて大翔の背後に回った。 男はムッとしつつ、大翔を睨みつける。 「俺を間に挟むな」 腕組をして、そこから一歩も動かず、睨みつけてくる男を睨み返す。 「と、ととととにかく!きょ、今日のところは帰るけど・・・・・・永久の都合のいい日に僕達は、ととと永久んちに泊まりに行くんだもん!!」 「好きにすれば?」 「大翔!ちょっ、いいのかよ?」 冷ややかな視線をその場の全員に向けてから、大翔はその場を離れた。 「永久が連れてきたんだから、永久が自分でなんとかしろよ」 「って、何処行くんだよ?」 大翔が歩き出したのは屋敷とは逆方向。 「俺はまだ飯食ってねぇんだよ」 「俺もまだ・・・・・・って、待てって」 大翔の腕を掴んで引き止めたまま、彼らに振り返る。 「僕達一旦帰ってお泊りセット用意して永久からの連絡待ってるね」 ニッコリ笑う男。 他の何人かは心が揺れ動いていると言った感じだ。 (俺、こいつ嫌い) 大翔に睨まれても動じない彼(内心動揺しまくっていた)は、チラッと大翔を一瞥して、永久に視線を上げる。 「で、ココに迎えに来てよ、ね、ととと永久?」 再びチラッと大翔を見て、彼らは去っていく。 「・・・・・・・・・・・・永久」 離れて行く彼の背中を睨み付けたまま、大翔に名前を呼ばれた。 「はい。お怒りはごもっとも」 掴んでいた腕を引き寄せて、抱き締める。 腕の中にすっぽり納まった大翔の頭の腕に顎を乗せて、小さくなっていく彼らの背中を見送った。 「なんなんだ、あいつら?」 挑戦的な視線を何度も向けてきた男。 「だから、昔アカデミーで一緒だった・・・・・・名前は廿楽、俺らと同じ吸血鬼。なんでか知らないけど俺によくくっつきたがるんだよ」 (なんでか知らないけどだと?) 「ふ~ん」

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