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第88話

さっさと先を行く大翔の後ろから、足取り重く永久が続く。 昨夜のオカマ御一行さんから食らった恐怖と、先程の可愛らしい少女から受けた恐怖が永久を支配している。 大翔は平然と玄関の鍵を開けて中に入って行く。 そして、扉が閉まった。 が、すぐに開かれて、大翔が顔を覗かせる。 「何やってんの?」 「今日もいる?」 「いいから早く入れ」 渋々永久が家の中へ入る。 煌煌と照らされた室内・・・・・・シンと静まり返った室内。 嫌な気配はまったくしない室内。 「ひろちゃん・・・・・・なんか・・・・・・平気っぽい?」 「とわちゃん、昼間の内に結界張っておいてもらったから、下には降りてこれないよ」 先を行く大翔はリビングのソファに持っていた荷物を投げて、ジャージを脱いだ。 「俺先に風呂入るな」 「俺も一緒に入る!」 「今日は出ないって言ったろ!一人で入れ!!」 「なんとなく・・・・・・あのオカマさん御一行は出るような気がする!!」 (た、確かに・・・・・・) すぐに否定できなかった大翔の反応に、永久は服を脱ぎ始めた。 「ったく・・・・・・今日は下の客間で寝るぞ」 「大翔と一緒なら何処でもいいぃよぉ」 「明後日には真琴のオカルトグッズ、全部撤去させてやるから・・・・・・」 「ってことは明日もこのまま・・・・・・・・・」 「永久・・・・・・お前、やっぱり煩いからどっかにお泊まりしに行け!」 本日、一階は安全らしいことに段々実感が沸いてきた永久は、心に多少のゆとりが生まれていた? 「やぁだよ・・・・・・俺はヒロと一緒にいる」 背後からぎゅーっと大翔の身体を抱き締める。 「二人っきりなんだから、ヒロももっと甘えていいんだぜ?」 「俺は一人になりたい」 永久にされるがまま、姫抱きされて風呂場へ入って行く。 「だぁめ。いっつも弟達ばっかりが甘えてんだから、たまには俺だけのものになぁれっと!魔法をかけちゃうぞぉっ!」 (永久・・・・・・お前・・・・・・) 大翔の眉間に深い皺が刻まれる。 「なぁ、ひ~ろとっ・・・・・・だぁいすっきぃぃぃ」 バキッ!!! 永久が床に沈む。 冷ややかな視線で見下ろす大翔は、指の関節を鳴らし・・・・・・ 「今すぐ永久から出て行かねぇと二度と転生出来ねぇようにしてやる」 低い、それはそれは地を這うような低い声で永久の肩を踏みつけた。 ビクンと大きく永久の身体が震える。 ふわぁっと永久の姿が二重にダブったかと思うと、一瞬にしてソレは掻き消えた。 「ひ・・・・・・大翔・・・・・・痛いんだけど・・・・・・」 床に打ち付けた顔面を押さえて、永久がゆっくりと身体を起こす。 「大翔・・・・・・もう少し優しくしてくんね?」 「簡単に取り憑かれるな」 「つ・・・・・・次は、き、気をつけます」 何をどう気をつけたら良いのかは分からないが、そう永久は誓って、二人は仲良く入浴タイム。 「そっ、それで、兄ちゃんは大丈夫だったの?」 瞬はアカデミーが終わってから速攻、モデル事務所へ行く前の大翔を捕まえて、ハンバーガーショップに入って昨日のことを話した。 「大丈夫じゃなかったら、今頃連れてかれてただろうな」 「どっ、どどどっ、何処に?」 「お花畑じゃね?」 ずずーっと炭酸をストローで吸い上げて、人事のように大翔は言う。 もちろん人事だけれど。 「お花畑って、あのお花畑?」 折角買ってもらったハンバーガーも、ポテトも、その他諸々にも手をつけず、瞬はただ恐怖を感じていた。 「そのお花畑だろ?」 「兄ちゃん死んじゃうの?」 大きな声で叫んで、店内の注目を集めても構わない。 「死んでないだろ?」 心配ない、と大翔はポテトをパクリ。 「で、そんな兄ちゃんは今何してんの?」 ドサクサに紛れて、永久は大翔にべったり甘えているに違いないと思っていたのだが? 「今日は俺達がアカデミー時代の、永久曰く『友人』らしい連中がうちに泊まりに来ることになっているから、そいつらを迎えに行った」 その後・・・・・・瞬を伴ってラーメン屋で軽く夕食を済ませ、大翔は瞬と別れてそのまま真っ直ぐ自宅へ戻った。 バタン、と勢いよく玄関の扉を開けて・・・・・・ 「てめぇら、ココに整列しろぉ!!」 怒号。 誰もいるはずのない屋敷のあちらこちらからザワザワと声が幾つも聞こえて・・・・・・・・・ 何処からともなく扉が閉まる音や廊下を走る足音がして・・・・・・ 全ての窓が閉まっているのに、風が吹いて大翔の髪を撫でた。 そして、大翔の前には・・・・・・・・実体のない者達が二列に並んで頭を垂れた。 「全員揃いましてございまする」 「これから永久が何人か目障りな連中を連れてくる」 まるで鬼教官のように、大翔は玄関先で仁王立ち。 「お前らは、奴らを脅かして追い返せ!」 冷ややかな視線を受け、一番前の鎧武者が手を挙げた。 『どのような手段を使っても構わぬと?』 武者の口は動いていないが、大翔の耳に届いた声は、低く、ユラユラと揺れていた。 「好きにしな」 そう言うと、彼らの後ろの方から再び挙手。 『可愛い坊やはいますかぁ?』 野太い声の女。 「存分に可愛がってやるといい」 ニヤリと大翔の口の端が吊り上る。 『ひろちゃん、格好良い・・・・・・うっとりするわ』 『極悪ひろちゃん、ステキッ・・・・・・抱いて!』 硬骨な表情を浮かべた者達の、野太い声があちこちから上がった。 「制限は無し・・・・・・」 大翔は靴音を響かせて、彼らの間を奥へと進む。 『おぉ!!と、言うことは!!』 背中に矢の刺さった落ち武者が口の端から血を垂れ流したまま、笑みを浮かべた。 「存分に暴れるがいい」

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