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第89話

屋敷では大翔が霊の方々に恐ろしいことを許可しているとは露知らず、永久は駅前にぽつんと立ってアカデミー時代の仲間を待っていた。 「あ、永久!」 一番乗りで駅前にやって来たのは、廿楽だった。 「廿楽、俺のこと呼び捨てにするのやめてくんない?」 永久は、最近人気のモデル『アリス』が微笑むポスターの前にいた。 「えぇ!どうしてさぁ!いいじゃん、減るもんじゃないし!」 不服顔の廿楽。 「永久くん!永久さん!もしくは、永久様と呼べ!」 そして譲らない永久。 「やぁだよ!僕は永久って呼ぶもんね!」 ギュッと永久の腕に自分の腕を絡ませて、ニッコリと笑った。 「お前ら、駅前でいちゃつくなよぉ」 近づきにくそうに、二人が近づいてきた。 「遠野、矢部・・・・・・何処をどう見たらいちゃついてるように見えるんだよ?」 (全体的にだよ) 二人は心の中でツッコミを入れ、この間会った残りの連中が、残念ながら永久んちのお泊り会を辞退したと告げた。 四人は近くにあったコンビニで菓子や飲み物を購入し、屋敷に向かって歩き出す。 「お前ら、ちゃんと自分の身は自分で守れよ?」 どうなっても知らん、と大翔は言っていた。 そして、永久自身どうなるのか分からない。 「俺はどうすることも出来ねぇからな・・・・・・昨日だって・・・・・・」 取り憑かれたんだ・・・・・・と周りには聞こえないようにボソッと呟いた。 そして、最悪なのが大翔の機嫌だ。 「一つ忠告しておくけど・・・・・・たぶん、俺んち、今独裁国家化してると思うから」 「は?」 「なんだよ、それ?」 (冗談だと思ってるだろ?行ってみれば分かるよ・・・・・・そんな気がするんだ・・・・・・だって、大翔が) 「大丈夫だよ、永久。僕が守ってあげるから」 一人上機嫌で永久の腕に抱きついて廿楽は言う。 「お前らは大翔のことを知らないから、そんなことが言えるんだよ」 このまま屋敷へ帰るのは気が重い。 なぜだが、だんだん屋敷に帰らないほうが身のためだと思い始める。 かと言って、あの場所に大翔を一人にするわけにもいかない。 自分が帰ったところで何が出来るわけでもないけれど、大翔の側にはいなきゃいけない気がする。 けれど。 「なぁ、ホラーハウスっぽくねぇ?」 屋敷が見えてきた。 そして、矢部が口にした通り、既に屋敷の外観に変化が生じていた。 屋敷を取り巻く蔦植物・・・・・・そして、毒々しい色の花を咲かせている。 全体的にぼんやりと紫色の靄が掛かっていて、入り口の扉がはっきりと見えない。 誰もがゴクリと生唾を飲み込み、門を開けて、その敷地に一歩足を踏み入れた途端、ゾゾッと悪寒が走り・・・・・・ 「つ、廿楽・・・・・・お前何とかできるんだろ?」 遠野によって先頭に立たされた廿楽は、全身硬直したまま。 (ほらな!だからな!やっぱりな!!) 永久は彼らの一番後ろで頭を抱えていた。 (外でこんなんだったら家ん中はどうなってんだよ!!) 踏ん張る廿楽を三人で押しながら、玄関に辿り着く。 代表で矢部が扉のノブに触れた。 それは、とても冷たくて、反射的に手を引っ込める。 「超冷てぇんだけど・・・・・・ってか、痛ぇんだけど・・・・・・どうやって開けるんだよ、これ?」 「な、なにか包むもんないか?」 声を掛けられても、何の反応もしない廿楽を横へ退けて、矢部と遠野でなんとか玄関の扉を開けた。 そして。 (ごめんなさい、大翔) 中の光景を目の当たりにした永久は、心の中で懺悔した。 「現在の状況を報告してくれる?」 屋敷から数メートル離れた位置に停まっていた黒塗りの車の中で真琴は携帯を耳に当てた。 「ターゲットが漸く玄関の扉を開けたよ」 聞こえてきたのは水島の声。 真琴の前には小さなモニターが幾つか並んでいる。 映し出されているのは屋敷の至るところに設置した監視カメラの映像。 先程、大翔から連絡をもらい、いいもん見せてやるからおいでと言われ、キラキラと目を輝かせ、期待に胸を躍らせて、いろいろなデータを取るために、人手を集めて屋敷の周囲を取り囲んだ真琴は、携帯に向かって指示を出す。 「真琴ちゃん、ターゲット、なかなか家の中へ足を踏み入れません」 「背後から押し込んで」 姿は見られないように、と付け足して一旦通話を終了させる。 モニターには青ざめた永久の姿も映し出された。 「真琴ちゃん、この部屋の温度、ものすごく低いんだけど・・・・・・ここって・・・・・・」 隣で一緒にモニターを覗き込んでいた瞬が指摘した部屋には大翔がいる。 「絶対零度の凍気を身に纏った大翔くん、だよね・・・・・・兄ちゃん、大丈夫かなぁ?」 「大丈夫よ。お兄ちゃんの場合、ただのヤキモチだから」 「ヤキモチ?誰に?」 このモニターに映し出されたメンバーの中に、大翔がヤキモチを妬いた人物がいるのだとしたら誰だ? 「この人じゃない?」 真琴が一つのモニターを指差した。 そこには廿楽が映っていた。 「どうしてそう思うの?」 「勘!」

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