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第6話 カクテル2p
ある日の休日の昼下がり、日下部 光平 は、朝、起きてから全く整えていないボサボサの自分の髪をたまに手で触りながら部屋で一人、酒を飲み、テレビドラマの再放送を観ていた。
二年前に流行った、高校が舞台の学園ドラマで、不良の主人公が、生徒会長を務める女子に恋をするというような話だ。
セーラー服姿の髪の長い生徒会長がテレビの画面で微笑んでいる。
ドラマの影響か、日下部は、中学時代の思い出を思い出していた。
昼休みの屋上に日下部は同級生の、綾 弓蝶 と二人きりでいた。
綾は、長い黒髪を人差し指に絡ませて遊びながら、水筒から飲み物をゆっくりと飲んでいる。
日の光を浴びて、綾の白い肌が輝いている。黒に近い紺色のセーラー服が綾の白い肌を際立たせていた。
綾はゆっくりと、ゆっくりと、喉を鳴らして水筒の飲み物を飲んでいる。
何を飲んでいるのかと聞く日下部に、トマトジュースよ、日下部くんも飲む? と綾は言って、自分の水筒を日下部の手に渡す。
水筒の飲み口に赤いルージュの跡があった。
美味しいわよ、飲めば、と綾。
日下部は、ルージュの跡がある方を避けて水筒に口をつけた。
甘ずっぱいトマトジュースの味が日下部の口の中に広がるが、何かおかしいと思う日下部。
「このトマトジュース、何か入ってる?」
綾はクスクスと笑い、ウォッカよと答える。
酒かよ、と驚く日下部。
「ふふ、ブラッディメアリーっていうのよ。日下部くん、顔が真っ赤、トマトみたい」と綾は笑った。
ブラッディメアリー。
トマトジュースとウォッカのカクテル。
血まみれメアリーというその名のカクテルには、私の心は燃えているという意味がつけられている。
カッコーン! という、ドアベルの鳴る音を聞いて日下部は我に返った。
二度目のベルの音。
「はい?」と日下部が言うと、外から「俺だけど」と天谷 雨喬 の声が返ってきた。
日下部は玄関ドアのチェーンを外し、ドアを開いた。
「急に来てごめん、近くまで来たから。あの、迷惑?」
日下部より少し背の高い天谷は、日下部を、かけている黒縁メガネ越しに、ほんの少し見下ろして言った。
天谷の、男にしておくには惜しい綺麗な顔は、彼の長い前髪で少し隠れてしまっている。
まるで走ってきたかのように、天谷は素早く呼吸を繰り返している。
「別に迷惑じゃないよ、入れよ。息、上がってる、どうしたの?」
日下部が言うと、天谷は照れ臭そうにして「別に息上がってないし、急いで来たとかじゃないし、お邪魔します」と早口で言って部屋に入った。
日下部はそんな天谷を見てにやける。
そんな日下部を見て、天谷は舌打ちをした。
「これ、お土産。コーラとポテチ……って……日下部、お前、なんか酒臭い。なぁ、まさか酒飲んでた?」
日下部にコンビニの袋を手渡しながら顔をしかめて言う天谷。
「あー、匂いする? 今、飲んでたんだよ」
「はぁ? 信じられない。日下部、お前、まだ未成年だろ、ダメだろ! 昼間っから酒とかダメだろ! 不良! 不良! この不良男!」
「お堅いな、天谷は。そんなんじゃ、未成年失格だぜ」
「どっちがだよ、この不良! あ、学園キャパシティの再放送観てたんだ? 観てるドラマだけは未成年らしいな」
天谷は付けっ放しのテレビを観て笑う。
「ほっとけよ! まったく、今、飲み物入れるから、座って待ってろ」
「うん、あ、俺、飲み物、持ってきたコーラでいいから」
「了解」
日下部は台所に立ち、天谷から渡されたコンビニの袋からコーラを取り出してコップに注ごうとする、が。
(あいつ、俺のこと不良とか言いやがって。あいつは、いつも偉そうに説教しやがるよなぁ……よし、少しからかってやるか)
日下部は一人、ククッと笑うと、コーラを冷蔵庫にしまい、代わりにトマトジュースを出した。
(俺を馬鹿にすると、どういう事になるか思い知らせてやる。これで天谷のやつも未成年失格だな)
「日下部、何やってるんだよ、遅いし」
天谷が座っているソファーから立とうとする。
「あああーっ! 今行くから座ってて!」
慌てて言う日下部に、天谷は不審そうな顔を向けるが、日下部に言われるままにした。
「お待たせ、天谷、はい、飲み物」
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