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第13話 天谷雨喬の人間関係3p

「おい、早く日下部のところ行って、あいつ、からかってやろうぜ!」 「もう、やめなよー」 「ははっ」 「あ、じゃあな、天谷!」  誰かがそう言って、騒がしい四人組は天谷から離れて行った。 (キスマーク? 彼女? 遊びの女? は? え、日下部? はぁぁぁぁーっ?)  天谷は始業を告げるチャイムの音を聞くまでの間、しばらくその場に立ち尽くしていた。  午前の講義が全て終わると天谷は一人で大学の中庭に来た。  日下部から何度かメールが入ったが、天谷は無視した。  売店で買った、きな粉パンをかじり、牛乳をストローで飲みながら、天谷はリュックにいつも入れている小説を読んだが、四人組から聞いた日下部の話が頭をよぎってしまって小説に集中出来なかった。 『いや、日下部のやつ、首に絆創膏、めちゃくちゃ貼ってるじゃん。アレ、キスマークを隠しているんじゃないかって』 『ぶはっ! 狂犬! 日下部のやつ、決まりだな! あいつ、どんなプレイしてんだよぉ!』 『ショック、私、日下部狙いだったのに。あいつ、彼女できたってこと?』 『遊びの女じゃねーの? 日下部、モテまくってるから女喰い放題だろ』 「くそっ! はぁっ……」  天谷は小説を置いた。 (あんな話、信じるわけじゃないけど、何だろう、モヤモヤする)  天谷は地面に転がるスマートフォンをチラリと見る。 (日下部に確かめる? いやいや、確かめるまでも無い! 絶対無いだろ! 昨日は一緒にいたんだし、首の絆創膏はそんなんじゃないだろ!)  天谷は首を横に振った。  天谷からため息が漏れる。 (はぁっ、あんな話を気にしてるとか、俺って割と嫉妬深いのかな……) 『遊びの女じゃねーの? 日下部、モテまくってるから女喰い放題だろ!』 (万が一、日下部にそういう相手が出来たとして、どうよ? 仕方ない……よな。俺じゃあ、あいつの、そういうの、満たしてやれないし) 『あいつ、彼女できたってこと?』 (もしも、日下部に彼女が出来たら……やっぱり仕方ない?) 「あの……」 「はぁ、なんかもう死にたい」 「えっと、すみません!」 「てか、日下部が死ね! 火の無い所に煙は立たないって言うじゃん! キスマークとか、あいつ……」 「あの、すいません、あれ、取ってもらえません?」 「へ?」 「羽根、取ってくれたら助かるんだけどな」  独り言を呟いていた天谷に、バドミントンのラケットを持った女子が木の上を指差して話しかけていた。  天谷が見上げると白いバドミントンの羽根が木の枝に挟まっているのが見える。 「ああ、あれ、うん、わかった。待ってて」  天谷は背伸びをして羽根に手を伸ばす。  しかし、羽根は天谷の手をかすめるだけでなかなか取れない。 「あれ? えいっ! 届かないな」 「頑張って!」  天谷は応援に応えようと頑張って手を伸ばす、が羽根は天谷の手に入らない。 「あの、大丈夫?」 「あー、ごめん、もうちょっと待ってて、えいっ!」  天谷は焦りを感じていた。  ……羽根が取れない。 「どきな!」  クールな声が響いたのと同時に、羽根に小石が当たる。  羽根は小石に弾かれ地面に落ちた。  小石は天谷の頭に落ちた。  天谷は頭を抑えて「うっ」と声を上げる。 「どきなって言ったろ、鈍いね!」  声の主は真っ直ぐ天谷の方へ歩いてくると、大丈夫かよ? と言って天谷の顔を覗き込んだ。  天谷は声の主の顔を見る。  たまに日下部と小宮と一緒にいる女子だった。  天谷も彼女と話したことはあったが、天谷は彼女の名前を覚えていない。  彼女は驚くくらいに金髪に染めたロングヘアーの髪をポニーテールに結わき、胸に一連托生と刺繍の入ったピンクのスカジャンを着こなした、ヤンキーなファッションで、スッキリとした綺麗な顔をしている。 「おい、天谷、なんだよ、人の顔、じっと見たままでさ! 石に当たって壊れた?」 「ご、ごめん。壊れてない」 「ならよかった。……おい、アンタ、はいよ、これ」  ヤンキーな彼女は羽根を、ラケットを持った女子に放り投げる。  ラケットを持った女子は羽根をキャッチして「ありがとう」と言うと、ヤンキーな彼女にお辞儀をしてこの場を去って行った。  天谷はヤンキーな彼女と二人きりになる。

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