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第23話 恋に恋するでもない話2p

 どうしたらいいのか、と彼女は言うが、それは実際は日下部と天谷の方だった。  二人は付き合っているが、そのことは二人だけの秘密だった。  それが何故だか知られている。  しかも、見ず知らずの女子に二人の関係を追求されているのだ。  日下部と天谷にとって、どうしたらいいのか分からない状況とはこのことだ。 「えーと、あの、あんた、なんなの? 女装ってどういうこと?」  天谷が真っ白な頭の中からなんとか言葉を見つけて話した。  言われた彼女は涙を啜った。 「うっ、私、榎本海っていいます。私っ、日下部くんと仲がいい小宮くんに、私が日下部くんを好きだから、日下部くんと仲良くなりたいって勇気を出して相談して。そうしたら、日下部くんには彼女がいるから諦めろって、小宮くんに、彼女……彼の写真を見せられて。凄く可愛い子だったからこれは諦めようと思ったら、学校でその子を見かけて。ぱっと見は、わからなかったけど、でも、背が凄く高いなって……うっ、うっ……それで、この人、近くでよく見たら、男で……ううっ」  榎本はそう天谷を指差して答え、泣きじゃくる。 「小宮、どういうことなの」と小宮をきつく睨む嵐。  天谷と日下部も鋭く小宮を睨む。  小宮はすまなさそうな顔をして、スマートフォンを取り出して、画面を操作し、三人に見せた。  三人は顔を合わせて画面を見る。  スマートフォンには、セーラー服姿の黒髪の少女の写真がある。 「うわっ、なにこの子、めちゃ綺麗な子じゃん!」  嵐が思わず声を上げた。  天谷と日下部は写真を見て、うっ、と声を上げて唸った。  スマートフォンの画面に映る少女は息を飲むほどの美少女だ。  長い髪を両手で少し掻き上げたまま、恥ずかしそうに俯いている少女は、カメラからは視線が外れている。 「その写真の子、彼でしょ!」  泣いていた榎本が顔を上げて、天谷を激しく指を差して、そう訴える。  言われて、嵐がまじまじと写真を見る。 「ええっ? これが天谷? ちょっと待ってよ、嘘でしょ? え、ええっ? 確かに……にてる? けどさ、この完成度、男として有り得ないでしょ。良く似た他人とかじゃないの?」  嵐は写真の美少女を穴が空くほど見る。 「い、あ、あ、天谷、アンタ、実は双子の兄妹とかいないわけ?」 「いない」  嵐に言われて天谷は即答した。 「あ? ……ああっ、あ、うそっ……マジで? この写真、天谷? えっ、ななな、なんなの、この写真? つか、天谷、なんで女装? ええええっ?」  嵐は写真の美少女と目の前の天谷雨喬を何度も見比べたが、写真の美少女は嵐が見ればみるほど天谷雨喬であった。 「この写真、まだ取ってあったのかよ、小宮」  そう言う天谷は静かに怒っていた。  日下部が「何でこんな写真、彼女に見せたんだよ」と小宮に、呆れて言う。 「ごめんなさい」  小宮はその場に土下座をした。  写真は、小宮、日下部、天谷の高校時代の文化祭の出し物の女装カフェでの天谷の女装姿を小宮が盗撮したものだった。  小宮はその写真を今までずっと取っていたのだった。 「ごめん。榎本が俺に急に、日下部を好きだから付き合えるように協力して欲しいとか言うから、少しからかうつもりで天谷の写真を見せて日下部の彼女だって言ったんだけど……まさか榎本が真に受けるなんて思わなくて。ごめん、悪気は無かったんだ、本当にごめん!」 土下座をしたまま小宮は謝罪の言葉を口にした。 「最低」  嵐が冷たい顔で吐き捨てるように言う。  日下部と天谷は、もう言葉が出ずに、ただ、土下座している小宮を見ていることしかできないでいた。  榎本も、途方にくれたように小宮を見ていた。  場の空気がとても重い。  嵐が、「そもそも、日下部と天谷が付き合ってるとか、ありえないし。榎本って言ったっけ? あー、なんて言ってあげたらいいのかな……」そう言って、榎本を見て髪を激しく掻きむしる。  嵐の台詞に、日下部と天谷は一瞬お互いの目を合わせ、直ぐに逸らした。  二人は、苦いものでも食べたような顔をしていた。

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